ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

ティム・ライス最新取材&London『エビータ』開幕!(3ページ目)

この秋、ロイド=ウェバー&ティム・ライスの名作『エビータ』が久々にロンドンで上演されます。貧しさのどん底から大統領夫人へと上り詰め、33歳で早逝したアルゼンチン人女性、エバ・ペロン。彼女の生き様をドラマティックに描いた本作は今回、どう舞台化されているでしょうか。プレビュー初日レポートとともに、作者ティム・ライスへの単独インタビューをお届けします。気になる最新情報もお尋ねしてきました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


『EVITA』ロンドン最新版プレビュー・レポート
稀代の“悪女/聖女”の
人生の最期に漂う儚さ

『EVITA』上演中のドミニオン・シアター。客席2000程度の大劇場だ。(C) Marino Matsushima

『EVITA』上演中のドミニオン・シアター。客席2000程度の大劇場だ。(C) Marino Matsushima

地下鉄トテナム・コート・ロード駅前にあるドミニオン・シアター(Dominion Theatre)は、12年の長きにわたり、クイーンの名曲からインスピレーションを得たミュージカル『We Will Rock You』の上演地だった劇場。顔見世歌舞伎の招き看板よろしく(?)、劇場正面の上部には巨大なフレディ・マーキュリーの彫像が屹立していたこともあって、すっかりロックなイメージが定着していましたが、実は英国の重要建築物(第二級登録建造物)にも指定され、公の許可無しでは改築等のできない劇場です。『We Will~』終演にともない20年以上ぶりの、3か月半にわたる大改修を行い、広々として華麗なアールデコ様式の内外観を取り戻しました。

特に170人がかりで補修したというプロセニアム・アーチ(舞台の額縁部分)は金色の彫刻が美しく、日本の劇場ではまずお目にかかれません。観劇の際にはぜひゆとりをもって到着し、このアーチや天井装飾、2年がかりで織られたというカーペットなど、細部を堪能したいところです。
『EVITA』Photograph by Darren Bell

『EVITA』Photograph by Darren Bell

さて、着席すると舞台幕には、アルゼンチンの民衆のイラストを切り取って描かれた「EVITA」の文字が。その幕を映画館のスクリーンに見立て、エバ出演の映画を観ていた観客たちが「エバ逝去」のニュースを聞き、悲嘆にくれる様子から物語が始まります。民衆に紛れていた男が帽子をかぶると本作の狂言回し、チェに。

舞台奥から棺が現れ、その傍らには打ちひしがれるペロン大統領と弔問にあらわれた民衆、子供たちの聖歌隊が。棺の中のエバが当時は聖女ともうたわれ、「特別な存在」であったことを印象付けますが、その様子を見ていたチェがおもむろに「こいつはサーカス、なんていうショーだ」と口を開く。こうして神話と疑惑の双方に彩られたエバ・ペロンの人生が、アンドリュー・ロイド=ウェバーの流麗な音楽に乗せて語られ始めます。
『EVITA』Photograph by Darren Bellundefined左からペロン役マシュー・キャンメル、チェ役マーティ・ペロウ、エビータ役マダレナ・アルベルト、マガルディ役ベン・フォースター

『EVITA』Photograph by Darren Bell 左からペロン役マシュー・キャンメル、チェ役マーティ・ペロウ、エビータ役マダレナ・アルベルト、マガルディ役ベン・フォースター

チェを演じるのはポップ・グループWet Wet Wetのボーカルとして活躍し、近年は『シカゴ』『イーストウィックの魔女たち』『ジキル&ハイド』等ミュージカルにも精力的に出演しているマーティ・ペロウ。本公演では全体的に指揮棒がゆっくり振られているため、「ナレーション」色の強い、言葉を丁寧に立てる歌唱となっていますが、一曲目「Oh, What a Circus」終盤の「She’s not coming back to you」の「to」をこぶし風に伸ばしているところに、歌手としての彼のこだわりがうかがえます。

田舎町で愛人の子として生まれ、さげすまれていたエバ・ペロンは15歳でタンゴ歌手マガルディの愛人となり、ブエノスアイレスへと上京。そして様々な男たちと「ねんごろ」になることで女優としてのチャンスを掴んでゆきます。この彼女の「最初の男」、マガルディを演じているのは12年の『ジーザス・クライスト=スーパースター』ライブ・ツアー公開オーディションで優勝し、タイトルロールを演じたベン・フォースターなのですが、彼の声はいかにも古いレコード盤から聞こえる往年のタンゴ歌手風。よくぞこの声を持ってきた!と唸らせる、絶妙の配役です。
「EVITA』Photograph by Darren Bell

「EVITA』Photograph by Darren Bell

ヒロインのエバ役は『レミゼラブル』25周年記念コンサートでファンテーヌ役を演じていたマダレナ・アルベルト。ポルトガル出身、『ジキル&ハイド』のルーシー、『ピアフ』タイトルロールなど既に数々の大役を演じている女優兼シンガー・ソングライターです。序盤は正直、15歳には見えない(このあたり、若く見えるアジア人の強みか?劇団四季版は違和感がありません)……のですが、有望な軍人、ペロン大佐と恋に落ち、自らの野望のために彼の尻をはたき、貧民たちに演説をして彼らを煽動するころから、俄然輝きを増していきます。

現存する写真の中のエバ・ペロンは優雅な姿ばかり見せていますが、そこに至るまでにはこんな奮闘の日々があったのだと納得させる、「泥臭い」ヒロイン。オリジナル・アルバムで同役を歌ったジュリー・コヴィントンにも通じる、パンチのあるソプラノで「Rainbow High」の「私は民衆の生まれだから彼らを喜ばせるため、お洒落をして輝かなくてはいけない」といったくだりを痛快に聴かせます。
『EVITA』Photograph by Darren Bell

『EVITA』Photograph by Darren Bell

ボブ・トムソンとビル・ケンライトによる演出はややシンプルなセットを使ったオーソドックスなもので、ペロンとエビータのその時々の社会的位置づけを明確にしているのが特色。特に序盤は政情不安の中で目まぐるしく状況が変わっていくのですが、ペロンと他の軍人たちとの出世争いは通常の「椅子取りゲーム」に、一人ずつ首に袋を被せられて連れ去られるという血なまぐさい描写が加わり、その熾烈さを強調。労働者たちの支持を得たペロンに恐れをなした軍人たちがペロンを逮捕するが、エバの演説によって民衆が動き、彼が再び権力の座にかえりつく様も分かり易く表現されています。

前ページのインタビューで作者ティム・ライスは、「(本作はエバのダークな面も批評的に描いているが)今回のプロダクションは若干彼女へのシンパシーが勝った演出だと思う」と語っていましたが、クールな表現の劇団四季版を観慣れた日本人観客からすれば、後半に子供たちが再度登場し、エビータの聖女化ムードを強調したり、病に倒れたエバをペロンが「Don’t ask anymore(劇団四季版での訳詞は「俺は知らない」)」と言った後に去ることなく始終付き添っている様子などを見ると、6割どころか8割がた、エバへのシンパシーを表した作りに見えます。また92年のマドンナ主演の映画版のために作られたナンバー「You must love me」が挿入されているのは、劇団四季版には無いだけに新鮮。

エバの最期は、彼女が横たわるベッドが一瞬囲いに覆われ、もう一度現れた時、それが白いシーツに包まれていることで表現。そこに霊となったエバが現れ、辞世の句とばかりに「lament」を歌い、名残惜しそうな足取りで去って行く……。どこか“祇園精舎の鐘の声……”と『平家物語』の一節を彷彿とさせる、人生の儚さに満ちた幕切れです。ロンドン公演は11月1日まで。ペロンの愛人、ミストレスのナンバーなどはかなり音量が絞られますので、1階前方席を選ぶとより作品に入り込みやすいでしょう。

*公演情報*
EVITA』2014年9月16日~11月1日=Dominion Theatre

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