近年、私が担当している「司法書士試験」の出願者数・受験者数は減少しています。出願者数・受験者数は、その試験を目指す方に影響する要素です。

司法書士試験は、「対出願者数(実際に受験したかにかかわらず願書を出した人数)ベース2.85%程度」または「対受験者数(実際に受験した人数)ベース3.50%程度」で合格者数を決定しています(※)。よって、出願者数・受験者数が増加すれば合格者数は増加しますし、出願者数・受験者数が減少すれば合格者数は減少します。
※平成26年度の合格率は「対出願者数ベース3.11%」「対受験者数ベース3.79%」でしたので、合格率が上がることもあります。

また、出願者数・受験者数と関連する合格者数は、その試験に合格した後にも影響します。試験に合格した人からすると正直な話、「合格者数は少ないほうがよい」と考えている方もいます。なぜなら、合格者数が多くなればそれだけ仕事のライバルが増えることになるからです。仕事のパイには限界がありますので、合格者数が多くなってしまうと困るのです。
実際に、私はある司法書士の先生に「今年の○○県の合格者数はどれくらい?」と聞かれ、「○○人です(その県の合格者数は例年よりかなり多かったです)」と申し上げたところ、「えっ?そんなにいるのかよ…」とおっしゃっていました。

そこで、この記事では「司法書士試験の出願者数・受験者数減少の原因」および「今後どうなるのか?」について考えていきたいと思います。「出願者数・受験者数減少の原因」は、様々な情報から私が導き出した考えですので、必ず正しいとは申し上げられませんが、毎週受験生の方と接していることから得られた情報も基にしていますので、参考にはなるかと思います。

司法書士試験の出願者数・受験者数の推移

まずは、10年分(平成18年度~平成27年度)のデータを見てみましょう。司法書士試験の平成18年度~平成27年度の出願者数・受験者数は、以下のとおりです。

【司法書士試験の出願者数・受験者数の推移】(平成18年度~平成27年度)
※グラフの数字は人数を表しています。
司法書士試験の出願者数・受験者数の推移

司法書士試験の出願者数・受験者数の推移


平成22年度をピークに出願者数・受験者数ともに減少していることがわかります。

出願者数・受験者数が減少することは、受験生の方にとってはあまりよいことではありません。前述しましたとおり、司法書士試験は「対出願者数ベース2.85%程度」または「対受験者数ベース3.50%程度」で合格者数を決定していますので、実質的な競争率は変わらないようにも思えます。しかし、出願者数・受験者数が減少するということは、司法書士試験に新規参入する方が減少していると考えられます。
後述しますが、司法書士試験は大きな制度変更があったわけではありませんので、「今まで受験していた方で受験を諦める方が、突然多くなった」とは考え難いのです。そうすると、新規参入する方が減少していると考えるのが自然です。

新規参入される方が減少すると、なぜ受験生の方にとってあまりよいことではないかというと、それは「受験生全体のレベルが上がるから」です。司法書士試験は記憶がメインの試験ですから、勉強期間の長い方のほうが高得点が取りやすくなります。よって、新規参入の方が減少し、勉強期間の長い方が増えると、受験生全体のレベルが上がるのです。

それでは、出願者数・受験者数の減少の理由を考えていきましょう。

明白な理由はない

実は明白な理由はありません。どういうことかご説明します。
たとえば、同じく法律系資格試験である司法試験も出願者数・受験者数は減少傾向にありますが、これには明白な理由があります。司法試験は、「制度改革」がありました。法科大学院が創設され、平成18年度より新司法試験がスタートしました。しかし、当初の想定よりも低い合格率や合格後の就職難などから、司法試験を目指す方が減少しています。司法試験の場合は、明らかに「制度改革(その失敗)」が減少につながっていると言えます。

しかし、司法書士試験は、制度改革は行われていません。よって、明白な理由は見いだせないのですが、減少の理由となり得るものを考えていきます。

理由1 社会情勢(景気回復により資格取得の意欲が減少)

アベノミクスにより、近年、景気は回復傾向にあります。「真の景気回復といえるのか?」という議論もありますが、失業率が低下し、雇用者数が増えていることはたしかです。

これは多くの資格に当てはまることですが、景気が回復し、一般企業への就職が容易な時は、「資格を取ろう」と考える方は減少します。特に司法試験、司法書士試験、税理士試験のように、取得した方のほとんどがその資格で生計を立てていけるような資格の場合、取得するのに相当な労力を要しますので、一般企業への就職が容易であるならば、そちらを選択する方が多いというのは当然の流れではあります。

理由2 ネガティブ報道の影響

弁護士ほどではありませんが、司法書士についてもネガティブ報道があります。たとえば、年収100万円台の開業司法書士に取材をし、それがあたかも司法書士一般の話であるような報道があります。しかし、マスコミは極端な例をあたかも普遍的な事実のように報道するとことが多々あります。そちらのほうが記事としては面白いですから。実際にそのような司法書士もいますが、その数はわずかです。

ですが、その資格を目指そうか考えている方はそのようなネガティブ報道を鵜呑みにしてしまう傾向があります。「マスコミが報道するなら真実なのだろう」と考えてしまう方は、残念ながらまだ多いと思います。よって、少なからず報道の影響はあるかと思います。

理由3 司法試験・予備試験の影響

・司法試験の制度改革の失敗による法律系資格試験離れ
前述しましたとおり、司法試験の制度改革の失敗により、司法試験の出願者数・受験者数は減少傾向にあります。司法試験の平成18年度~平成27年度の出願者数・受験者数の推移は、以下のとおりです。

【司法試験の出願者数・受験者数の推移】
(平成18年度~平成27年度)
※グラフの数字は人数を表しています。
※新司法試験は平成18年度から始まりました。開始当初は受験資格のある人が少ないので、出願者数・受験者数も少なくなります。よって、平成23年度以降の数字に注目してください。
司法試験の出願者数・受験者数の推移

司法試験の出願者数・受験者数の推移


司法試験の「制度改革(その失敗)」の影響と思われますが、大学の法学部の志願者数も減少傾向にあります。法学部に進学したうえで司法試験を目指す方は、実際はほんの一握りなのですが、「法学部と司法試験」を結びつけるイメージは強いため、定期的に司法試験に関するネガティブな報道がされると、法学部に進もうと考える学生の方が減少するのも致し方ないと思います。

その影響が司法書士試験にもあるのだと思われます。つまり、司法試験や法学部に対するイメージの悪化により同じ法律系資格試験である司法書士試験のイメージも悪化していると考えることができます。「弁護士がダメになってきているなら、司法書士もダメなんだろう」と考える方は多いと思います。

これを裏付けるものとして、同じく法律系資格試験である行政書士試験の出願者数・受験者数も減少している事実があります。平成18年度~平成26年度の行政書士試験の出願者数・受験者数の推移は、以下のとおりです。

【行政書士試験の出願者数・受験者数の推移】(平成18年度~平成26年度)
※グラフの数字は人数を表しています。
※平成27年度行政書士試験は、平成27年9月7日現在まだ行われていませんので、平成18年度~平成26年度の数字を表示しています。
行政書士試験の出願者数・受験者数の推移

行政書士試験の出願者数・受験者数の推移


ここまでに表示した3つのグラフをご覧いただくとわかりますが、法律系3資格と言われればまず挙がる「司法書士試験」「司法試験」「行政書士試験」がすべて、平成22年度または平成23年度をピークに出願者数・受験者数が減少傾向にあることがわかります。

・予備試験受験者数の増加
司法試験は、制度改革の失敗により受験者数が減少していますが、実は予備試験(※)は出願者数・受験者数が増加傾向にあります。
※予備試験とは、合格すると法科大学院を卒業せずに司法試験の受験資格を得ることができる試験です。

予備試験の平成23年度~平成27年度の出願者数・受験者数は、以下のとおりです。

【予備試験の出願者数・受験者数の推移】(平成23年度~平成27年度)
※グラフの数字は人数を表しています。
※予備試験は平成23年度より開始されましたので、平成23年度~平成27年度の数字を表示しています。
予備試験の出願者数・受験者数の推移

予備試験の出願者数・受験者数の推移


平成27年度は、平成26年度からわずかに減少しましたが(出願者数は79人、受験者数は13人の減少)、傾向としてはまだ増加傾向といっていいでしょう。

では、予備試験の出願者数・受験者数が増加していることと、司法書士試験の出願者数・受験者数の減少がどのように関係するのかという話ですが、実は、平成22年度頃(司法書士試験の出願者数・受験者数のピーク)までの司法書士試験の受験生の中には、「かつて旧司法試験を受験していたが、司法書士試験に転向した」という方がかなりの数いました。

私は平成22年度に司法書士試験に合格しましたが、私がお会いした合格者の方のうち、旧司法試験の受験経験のある方は、10人に1人くらいはいました。なぜ司法書士試験に転向したかということですが、それは平成18年度より新司法試験がスタートしたからです。移行期間ということで、平成22年度までは旧司法試験は存続したのですが、政策的に合格者数は減少されたため、司法試験を諦めて司法書士試験に転向される方が多くなりました。

旧司法試験を受験されていた方が司法書士試験の受験生になったわけですが、平成23年度より予備試験が実施されました。最初のうちは予備試験がどのような試験であるかの情報がほとんどなく、「よほど優秀な人しか合格できない試験なのではないか?」と思われていました。しかし、次第に当初の予想よりは合格しやすい試験だという認識が一般的になりました。

そこで、旧司法試験から司法書士試験に転向していた方が、さらに予備試験に転向したということが司法書士試験の出願者数・受験者数の減少の原因として考えられます。
ただし、予備校で司法書士試験の講師をしている私としては、この実感はあまりありません。しかし、旧司法試験から司法書士試験に転向していた方は、すでにある程度の実力のある方ですので、予備校を使わない方が多いです。よって、予備校関係者としても、あまり実態が把握できていないというのが実際のところです。


結論として、上記に挙げた理由が正しければ、今後、司法書士試験の出願者数・受験者数が増加することはあまり見込めません。理由として挙げた事項は、すぐに解消されることではないからです。