野球少年だけじゃない!夢を持つすべての人へ
『ホームランを打ったことのない君に』

「ホームランを打ったことがある方はいますか?」。 この問いに答えるのは、当然、野球をやった経験がある方に限られるでしょう。そして「はい」と答える方は、そう多くはないかもしれません。でも、「他のスポーツや勉強、仕事をしたり、日々の生活を送る中で、まるでホームランを打ったような嬉しさや誇らしさを感じた経験はありますか」と尋ねたら、「はい」「いいえ」では済まない色々な思いを持っている方は多いでしょう。

野球の試合でやる気が空回りして活躍できない少年「塁」と、塁にアドバイスをする年上の「仙ちゃん」の物語『ホームランを打ったことのない君に』。きっと誰もが「ホームラン」を打つチャンスを持っていると思える絵本は、野球少年はもちろん、夢を持つすべての子どもにも大人にもおすすめしたいです。



ホームランを打ちたかったのに……

少年野球の試合。2点を追う展開の6回表、1アウトランナー1・3塁というチャンスでバッターボックスに立った塁。高まる気持ちがじゃまをして、監督のアドバイスはしっかり届かなかったようです。打ったことのないホームランを狙った思いは、空回りしました。

夕方、偶然1年ぶりぐらいで出会った塁と仙ちゃん。仙ちゃんは塁よりもだいぶ年上のよう。やはり野球に打ち込む青年です。試合を見ていた仙ちゃんは、ホームランというものについてとつとつと塁に語ります。仙ちゃんに励まされ、また気持ちを切り替えて練習を頑張っていこうと決心した塁。しかし、その直後、姿を見かけなかったこの1年の間に仙ちゃんの身に降りかかっていた試練を知ることになり、言葉を失います。


前に進まなければ変わらない!

塁と話をしていたとき、決して、塁に対して「頑張れ」とは言わなかった仙ちゃん。塁なりに頑張っていること、何事も頑張ったからといって夢がそうそうかなうわけではないことも、よく分かっているからなのでしょう。でも、仙ちゃんの静かな口調から、塁は、落ち込んでいても何も変わらない、目的に向かって再び行動を起こさなければ変わる可能性はゼロだということを感じ取ったようです。塁の心は前に進み出しました。

野球少年には、ぜひともおすすめしたい絵本です。頑張っているのに思ったような結果が出ない塁の気持ちは小学校低学年でも分かりやすいと思いますが、つらい思いを抱えながら塁に淡々と話す仙ちゃんの言葉の裏にある思いは、もう少し大きくなると少しずつ感じ取れるようになってくるのではないでしょうか。悩んでいるだけでは変われないけれど、前に進むために自分で考えて行動してみよう! 最終ページで塁の夢の中に出てきた仙ちゃんの勇姿が、語りかけます。

野球に興味がない方々には、出だしの野球用語が並ぶ場面展開はなじみにくいかもしれません。しかし、野球にかかわらず、目標や夢を持って試行錯誤している人の心には、仙ちゃんの思いは静かに響くのではないでしょうか。

人生の中でのヒットやホームランって、とらえ方次第かもしれません。塁や仙ちゃんが積んでいる地道な努力は、今後の人生の中で、必ずや様々な形のヒットやホームランに結びついていくでしょう。若き2人にエールを送りたいと思います!
 

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。