“男役”“女役”を自由に行き来できる役者に
――大和さんは先日、パリにいらっしゃったそうですね。JAPAN EXPOの熱気あふれる会場でタキシード仮面を披露した大和さん(中央)。写真提供:GOOGA
――現地の方々にとっては、アニメで親しんでいたキャラクターが見事に立体化され、感動的だったのでしょうね。
「生身の人間がアニメのキャラクターを演じることには、独特の難しさがあります。漫画の世界って、一人で読んでいるうちにその人の中でどんどんキャラクターが膨らんでいきますよね。ミュージカル化にあたってはそのイメージに近いものでないといけないので、原作を尊重しつつ、リアルでなくてはいけません。バランスをとるのが難しいんですが、今回はキャラクターの感情をリアルに伝えられたようで、皆さん感動してくださいました」
――大和さんが一般的なミュージカルとはちょっと異なるジャンルの『セーラームーン』に出演されたことには驚かれた方も多いと思います。
ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』タキシード仮面役の大和さん。
――新たな男役の探究、ということでしょうか。
「アニメでは“いきなり未来からやってくる”とか、現実にはないようなことも起こるじゃないですか。それを嘘にならないよう、よりリアルに演じることが求められる気がします。その度合いを考えるのが、難しくもあり、面白くもありました」
――リアルでありつつ、男役の様式性も使うのですよね。
「そうなんです。驚いたのが、宝塚では王子様ものといって、ロングブーツを履いた王子様がマントを翻すような所作は或る意味普通のことなんですが、『セーラームーン』の稽古場でそれを初めてやった時に“ああっ”という声が稽古場にいた人たちから一斉にあがったんです。私、何かやったかな?と思ったら、“マントを広げて登場するのがすごくかっこいいです!”というんですね。宝塚では当たり前にやっていたことだけど、これは一つの男役の技だったんだと改めて自覚しました。赤バラを出して投げキッスしてから投げるような芝居にもみんな驚いていましたね。15年間男役をやっているうちに身についた様式が、宝塚を辞めてタキシード仮面をやることによって、自分の中でいっそう消化されて、力まず自然に滲み出たような気がして、嬉しかったです」
――宝塚時代に得たもので一番大きかったものは、やはり男役ということになりますか?
『まさかのChange?!』写真提供:東宝演劇部
――こだわりなく、という意味ではジャンル的にも幅広くご活躍ですね。6月に出演された演劇『細雪』では、姉妹の中で最も奔放な四女の妙子。赤いディオール風のワンピースがとてもお似合いでした。
『細雪』撮影:江川誠志 写真提供:明治座
――原作では、妙子は恋に生きるあまり次第に暴走気味になっていくキャラクターでしたが、大和さん演じる舞台版はひたむきで行動力のある女性でした。
「ええ、原作では妙子は(それぞれに丸くおさまる他の姉妹たちと違って)ぽつんと取り残されるような印象で終わっているのですが、舞台版では逆に一番未来を感じさせる、パワフルな人物に描かれているんです。(没落した大阪・船場の名家が舞台だが)お姉ちゃんたちは家の繁栄の名残と一緒に生きていくと同時にその中でおさまっていく感じがあるのに対して、妙子は一人、人生に立ち向かっていっている。没落した家をまた盛り返してくれるんじゃないかぐらいの強さがあって、それがすごく未来を感じさせてくれました」
――妙子がこれほどパワフルで魅力的な女性に見えたのには、宝塚の男役出身の方というキャスティングの妙もあったように思います。
「そうだとしたら嬉しいですね。お姉ちゃん役の方々は皆さん何度か同じ役を演じていらっしゃる方々でしたが、“妙子がこれまでとは変わったね”と仰って下さいました。私は初めてだったので自分では分からない部分ですが、男役をやっていたからこそ妙子の芯の強さが出せた部分があったのかもしれません。でも、妙子が自由に飛んでいけたのもお姉ちゃんたちがいるからこそ。演じながら、温かな姉妹愛を強く感じましたし、ちょっとした日常的な描写の中にすごく共感できる、感動できることがたくさんの含まれている作品だと感じました。だからこそ時代が変わってもずっと愛されているのだと思います」
――秋には宝塚OGが演じるオール女性の『シカゴ』にも出演されますね。
今秋、オール宝塚OGキャストで演じる『シカゴ』ロキシー役
――大和さんはとても引き出しが多く、海外でオペラを鑑賞されるのがご趣味なのですよね。それを活かして、オペラへの愛を綴った御本も出版されています。『大和悠河のオペラとお菓子の旅』(中央公論新社)では指揮者の大野和士さんとも対談されていますね。なぜ海外、なぜオペラなのでしょうか。
「一つの舞台が終わると気持ちを新たにしたくなるのですが、そのためには海外に行ったり場所を変えるのが一番なんです。そこで出会うものや人から影響を受けてリフレッシュされて、自然と吸収できるようになって帰って来る。すると次の舞台の台本が新鮮に読める。いい気分転換になるんです。旅先はオペラが観たいからヨーロッパが多いですね。スペインは建築物が曲がっていたりとぶっ飛んでいる部分があるし、イタリアも街によって出てくるパンに始まって全然違ったりと、どこも面白いです。カタコトでも一生懸命言葉を覚えて行っています。それが演技に直接影響するかどうかは分かりませんが、自分の中での栄養になるというか、世界が広がりますね。
オペラの魅力は、声の表現力。人間が自分の声を洗練させてそのテクニックで役の感情を表現していることに感動します。オペラの物語って極端と言うか、こんな不幸なことがあっていいの?というようなお話が少なくないんですね。それを表現できるのは、心の叫びを乗せた声だからこそじゃないかな。私が特に好きなのは『椿姫』の悲恋物語。ヒロインは高級娼婦なのですが、心根はピュアな人物。それが歌いだしただけで、その声によって分かるんです。海外でオペラを聴いて帰って来ると、知らず知らず自分の歌唱が変わっています。耳で聴いただけでも影響を受けるんですね。洗練された声に近づきたいなと思って、楽屋でも好きなオペラ歌手の楽曲を流したりしています。実はパリから帰って、日本でのお仕事やお稽古が一段落した数日の間に、テレビの取材のお仕事を兼ねてザルツブルグにも行ってきたんです。プライベート密着取材のような形で、特にエキサイティングな時間を過ごしました。ちょうどザルツブルグ音楽祭の時期だったのでモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』を観ましたが、舞台もすばらしかったですし、街全体が音楽やモーツァルトで彩られていて、とても刺激を受けました。ザルツブルグは以前にも行ったことがあるんですが、行く度にまた新しい発見がありますね。こうして少し時間を見つけるとヨーロッパに飛んでオペラを観たり、その空気を感じることが私の一番の気分転換になっています」
――インプットに積極的な大和さん、今後アウトプットの演技もさらに充実して行きそうですね。
「大和悠河として、自分が出るからには自分でしかできないお芝居をしたいですね。お客様に何か感動であったりいろいろなものを届けられる、そういう女優でありたいです。常にお客さんをいい意味で裏切っていける女優、自分らしさを大切にしていきたいです」
――演じることの一番の喜びは?
「やっぱり、お客様が喜んでくださっているのが分かると、すごく嬉しいですね。自己満足は良くないけれど、演技をして自分で“よし!”と手応えを感じた時には、お客様も喜んで下さっていることが多いので、自分を信じて、自分を出して演じること。それが私の女優としての役割なのかなと思います」
――とりあえずは「夏フェス」が楽しみです!
「私も楽しみです!」
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インタビュー後、「楽しかった!」と言ってくださった大和さん。快活で積極的、近くにいるとこちらも笑顔になってしまう向日葵のような彼女は、真性のスターだと感じられました。様々なチャレンジを重ね、引き出しの多い大和さん、役ではなくご本人として出演する「夏フェス」ではその魅力がいっそう輝くのではないでしょうか。ぜひご出演日をチェックしてお出かけください!
*公演情報*『ONE-HEART MUSICAL FESTIVAL 2014夏』2014年8月16~27日=シアタークリエ
*次ページで観劇レポートを掲載しました!*