マネジメント/マネジメント事例

期限切れ肉加工が示唆するファーストフードの限界点

日本マクドナルドなどの仕入れ先である中国の加工会社が、使用期限切れの肉を使っていた件は、飲食業界に大きな衝撃を与えました。日本を代表する大手飲食業が、なぜ消費者を大きなリスクにさらすような戦略をとってしまったのか。コストリーダーシップ戦略の限界という観点から解説します。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

傷ついたブランドイメージ

解説

中国における腐敗肉加工事件は大きな波紋を呼んでいる

問題の企業は上海の食肉加工会社「上海福喜食品」。品質期限の切れた鶏肉などの加工食品を納入したり、工場で床に落ちたハンバーガー用のパテを素手で生産ラインに戻したりしていた、と中国メディアが伝え大騒ぎに。日本ではマクドナルドやファミリーマートが同社から加工肉を仕入れていたことが分かり、外食大手の衛生面への懸念を感じさせるこの事件は大きな波紋を呼んでいます。

マクドナルドでは、チキンナゲットにその加工肉を使用していたとして即刻販売を中止。競争激化の収益悪化局面で業績低迷にあえぐ同社に、食品衛生面からの悪評が追い打ちをかける事態となりました。マクドナルドほどの大手企業がなぜ、衛生管理が難しく食品リスクの大きい中国加工肉に手を出してしまったのでしょうか。

ファーストフード業界の宿命が「食の安全」を脅かす

理由は簡単です。本来、規模の経済にモノを言わせて「一定の品質」を保ちつつプライスリーダーとして君臨するはずの業界トップ企業でありながら常に安売りを強いられるというファーストフード業界の宿命をマクドナルドは背負っています。そうした宿命が、「品質」を危うくするようなコスト削減をあたり前のものとして受け入れざるを得ない状況に追い込んでいたのです。

マクドナルドが採用する典型的なローコスト・オペレーションとは何か。資本力にものをいわせた投資により生産拠点を拡大することで大量生産システムを構築し、受注の拡大に伴って加速度的に生産コストを下げるやり方です。規模の経済が働くやり方である限りにおいては、「一定の品質」維持は守られます。しかし何らかの理由により、規模の経済の限界点を超えたさらなるコストダウンをおこなうことが「一定の品質」維持を困難にし、食品においては「品質=食の安全性」の破綻リスクを抱えることになるのです。

2004年、赤字にあえぐマクドナルドに迎えられた原田泳幸前CEOは、バリュー戦略という同社の安売り路線の見直しとブランド価値の向上により、業績回復を実現します。しかしながら、その際に顧客呼び戻しの武器として登場させたのが「100円ハンバーガー」だったという事実は、同社が安売り路線から脱却できなかったということであり、このことはまた、ファーストフード業界の宿命を明示する事実だと言っていいでしょう。

認識すべきコストとリスクのトレードオフ

解説

ハンバーガー業界は安い肉を世界中に求めている

ハンバーガー業界は牛丼業界と並んで、低価格化競争が最も激しい外食産業です。規模の経済によるコストダウン水準をはるかに超え、どの企業もより安価な輸入肉、より安価な食品加工を求めて世界中を駆けずり回っています。このような状況下では、食の安全面におけるリスクの増大は避けられない状況にあると考えるのが常識的な受け止め方ではないでしょうか。今回の一件でわれわれ消費者は、巨大化するファーストフード企業の、ブランドイメージに隠れ、見落としていた食の安全性リスクを目の当たりにすることになったとも言えるのです。

過度のコスト削減が品質の低下リスクとトレードオフの関係にあることは、業界を問わずあてはまる原理です。しかし、こと食品に関しては品質の低下がイコール消費者の健康にもかかわる重要な問題です。デフレ脱却の兆しが見えはじめた今、ファーストフード業界の行き過ぎた低価格競争は見直すべき局面に来ているのかもしれません。

今回のマクドナルドのケースは、まさしくこの限界点を超えた状況が生みだした食の安全性破綻リスクが顕在化したものと言っていいでしょう。より安価な労働力を求めた海外生産では、コスト低減と品質リスク増大のトレードオフが確実に成立してしまうのです。
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