将棋には深い読みが必要である。じっくりと時間をかけて、相手の意図を探り、自分の手を構築する。ここに将棋の魅力、醍醐味がある。読みは思考であり、いわゆる直感とは縁遠い世界、いや真逆のようにも思える。だが、実はこの深い思考も直感があってこそなのだ。説明しよう。

読みのスタートは直感

将棋の指し手は無限

将棋の指し手は無限

将棋一局における指し手の場合の数は「10の220条」という恐ろしい世界に達する。この数、我が国最高の単位である「無量大数」を3回かけ算しても足りない数であり、宇宙の分子の数に相当するとも言われている。こうなると、もはや数という概念ではなく、無限と言った方がふさわしい気がする。あなたが駒を動かすという行為は、無限に広がる世界から、たった一つの手を選択した結果を明示していることに他ならない。すごいことなのだ。では、実際にあなたはすべての場合を想定した上で次の一手を決定しているだろうか?そんなことをしていては、時間がいくらあっても足りまいし、そもそも不可能であろう。ということは、意識するしないは別にして、まず現局面から、直感によって、いくつかの手を選んでいるのだ。そのいくつかの選択肢の中から、思考によるシミュレーションを経て、手を決めている。つまり、どんなに時間をかけた深い読みでも、そのスタートは直感なのである。

直感はどうやって鍛えるのか

では、直感を磨くことは可能なのだろうか?そもそも直感とは何なのか?明確に答えてくれた棋士がいる。名人・羽生善治(関連過去記事)である。羽生はこう語る。

「直感とは経験の蓄積から生まれるものだ」

羽生は、ずばり「直感力」という書籍も発行している。

羽生の言に、なるほどと頷く方も多いのではないだろうか。もちろんガイドもその一人だ。直感についてたどり着いた羽生思考のプロセスが見事に著されたこの書。一読をお薦めする。だが、今回はこの本の紹介が主題ではない。もう一冊、ぜひとも読んでいただきたい本があるのだ。そして、その本こそ、今回の主役なのだ。

経験を蓄積した大海

ギャンブルにはビギナーズラックがあると言われている。初めて馬券を買った人がズバリ当ててしまうことも珍しくはないだろう。だが、これは直感ではない。ヤマ勘、当てずっぽうである。往年のプロ野球選手「打撃の神様」川上哲治は投手の投げるボールが止まって見えたという。ピッチャーの手からボールが離れてミットに収まるまでに、わずか0.4秒しかないのである。思考や観察をする余裕などあろうはずもない。これこそ、相手ピッチャーの球筋を直感でとらえることができたゆえの結果である。もちろん、打者としての経験という大海から抽出された直感である。

しかしである。では、どうやって直感を鍛えればいいのか。羽生や川上のような大海を経験値として持つことは不可能だろう。だから大海とは言わない。湖、いやいや、贅沢は言わない。せめて池ぐらいの経験から生まれる直感を手にしたいものだ。だが、悲しいかな、私たちが獲得している経験は、言わば「水たまり」のようなものだ。しかし、ここに一冊の本がある。それは、水たまりを池にへと変えてくれる書なのである。

水たまりを池へ

モーセは十戒を胸に、海を割った。私たちはこの書を胸に、経験という池を創るのだ。 その書は「将棋・ひと目の定跡」である。

本書の特徴

ひと目の定跡

ひと目の定跡

最大の特徴は手軽であることだ。文庫本サイズであり、その気になれば、場所を選ばずに没頭できる。これは、ありがたい。
この書は、実践に頻出する局面を提示し、そこでの一手を出題、解説する形式で書かれている。これが、みごとに系統立てて編集されているのだ。いわく、「矢倉・棒銀」「三間飛車・早石田」「ゴキゲン中飛車」などである。だから、あなたは自分の好きな戦型の箇所をまず読めばいい。難易度も提示されているが、それは参考程度にとどめ、すべて解いてみることをおすすめする。そして、何度も繰り返す。解けたといって喜んではいけない。解けないからといって落胆は無用だ。解けた、解けないに関わらず繰り返すのが肝心なのだ。目的を忘れてはいけない。あなたは、問題を解こうとしているのではない。水たまりの経験値を池にしようとしているのだ。そして、得意戦法だったら「ひと目」でわかるぞという自信がついたら、次の段階に移る。次は相手から仕掛けられたら嫌な戦法の研究だ。これも「ひと目」になるまで何度も繰り返す。さすれば、水たまりの底からぼこぼこと音を立て、泉が湧いてくる。同時に自分の直感力が上がっていくことを実感できるはずだ。 帯をご覧いただきたい。

「居飛車も振り飛車もこの一冊で/ひと目で急所に手が伸びる」

この言葉に嘘はない。実際、ガイドの経験値は水たまりからビニールプールへと成長した気がする。まだまだ遠いが池は見えてきた。

 

おわりに/ガイドの一工夫紹介

しおりがわりに糸を

しおりがわりに糸を

糸を背表紙に、一工夫

糸を背表紙に、一工夫

余談になるやもしれぬが、一つアドバイスを。しおりがあれば、既読ページの続きをパッと開けることができ大変便利である。しかし、ものぐさなガイドは、しおりの管理が苦手であり、使用していてもすぐになくしてしまう。そこで、背表紙にセロテープで糸を貼り付けた。これが、しおりがわりに最高である。画像は、その様子だ。ものぐさな同志よ、お試しあれ。さあ、ものぐさでない方も含め、皆さん、一緒にがんばろうではありませんか。池を目指して、繰り返そう!

(了)
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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。

「文中の記述に関して」
(1)文中の記述は、すべて記事公開時を現時点としています。




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