1匹の猫がのぞいて歩く、色々な家の『きょうのごはん』
夕方の活気ある商店街。お店の人とやり取りをしながら魚や肉を買う客たち。家々から漂ってくる夕飯を準備するにおい。こんな少し郷愁を誘われるような街から始まる絵本『きょうのごはん』。1匹の猫が家々のごはんをのぞいて歩き回ります。家族みんなで準備して囲むバラエティに富んだ食卓が、おなかを満たすだけではないごはんの役割をさりげなく伝えてくれます。作者の加藤休ミさんのごはんの絵は、どれもこれもたまらなく美味しそう! おなかがすいてきそうなほどのリアルさが魅力です。
家族みんなで準備する夕飯模様
赤ちゃんをおんぶしたお母さんが商店街の魚屋さんでさんまを買う姿を、1匹の猫が足元から見上げています。そのお母さんが帰宅し、窓を開け放した台所で、焼き網でサンマを焼く様子を、「ああ、いい におい」とつぶやきながら塀の上から眺める猫。台所の隣りの部屋では、赤ちゃんをあやすお父さんと、さんまに添える大根おろしを準備している子どもの姿があります。ご飯にふのりの味噌汁に、こんがり焼き目のついたさんまに、大皿に盛られた青菜の煮びたし。食卓についたお母さんが赤ちゃんの口にスプーンを運ぶかたわらで、お父さんと男の子がさんまを味わっています。塀伝いに移動した猫がのぞいた隣の家では、おかっぱ頭の女の子2人が、炊飯器からお皿にご飯をよそっています。ゴロットとした大きな具が入ったカレーは、大鍋のまま食卓に運ばれ、男の子がおたまでご飯の上にかけていきます。さらに隣の家には、フライパンとフライ返しを手に、オムライスづくりに張り切るお父さん。子どもは椅子の上に立ってお父さんの鮮やかな手さばきを見ながら、キッチンカウンターに置いたボールに卵を割り入れていきます。家族みんなができることを分担して準備していく食卓の様子が、とても心地よく映ります。
まだまだ猫の食卓めぐりは続きますよ!
クレヨンで再現されるリアルなごはん
驚くのは、おなかがすいてくるほどリアルで美味しそうなごはんの絵が、クレヨンとクレパスを使った独特の画法で生み出されているということ。作者の加藤休ミさんは、クレヨン使いの達人なのです。さんまの焦げ目は、位置によって微妙な変化が出ています。煮えたてのカレーの熱さやとろみ、レタスのシャキシャキ感、オムレツのふんわり感、たっぷりかけられたケチャップの量感までもが浮かび上がってきます。スケッチしたようなリアルな絵は、正によく観察しながら描かれたのではないかと感じます。みんなで作りたい!食べたい!の気持ちが引き出される
美味しそうなごはんの数々に目と心を奪われてあっという間に読み終わってしまったら、もう1度じっくり絵を見ながら読み返してみましょう。それぞれの家庭の食卓に登場する人たちは、実は商店街でも姿を見せています。買い物中だったり外出先からの帰りだったり、下校途中だったりと様々ですが、みんなの心の中には必ず、家族や夕飯のことが大きな部分を占めていることでしょう。そう考えたら、夕食というのは1日のクールダウンの時間でもあるのかもしれないと思いました。それぞれの家庭環境によって、普段の夕飯時に家族全員が揃えないこともあるでしょう。子どもの成長とともに、家族の食事時間にずれが出てくることもあります。でもやっぱり、みんなで思い思いにおしゃべりしながら食卓を囲む時間は、意識して作りたいですね。みんなで作りたい、食べたい気持ちをぐんぐん引き出してくれる絵本。私も、登場した揚げたてのコロッケを見たら、手間がかかるので普段の夕飯メニューにはあまり登場しないコロッケを、子どもたちと一緒に手作りして、口いっぱいにほおばりたくなりました!