住まいのプロが提案「イエコト」/住まいなでしこ ~女性目線のすまいのヒント~

深澤直人氏のデザイン定義(2ページ目)

住宅の設備や性能ではもはや大きな差別化が図れない時代、残された数少ない分野がデザインといってもいいでしょう。ただ一言でデザインといってもその意味するところは実に広くかつ深い分野です。最近の住宅業界で謳われているデザインとはどういう定義でどういうものなのか。デザイン力を強みとして打ち出す住宅企業のフォーラムから考えてみます。

河名 紀子

執筆者:河名 紀子

家づくりトレンド情報ガイド

前提を疑うことからデザインは始まる

傘の柄

深澤氏考案。雨の日の買い物。傘の柄にちょっとくぼみがあれば便利。

例えば、濡れた傘を立てる場所が欲しいという顕在ニーズがあれば、傘立てという「モノ」をつくればOKでした。それを丸くするか四角くするか、洋風にするか和風にするか。それがこれまでのデザインの世界でした。

しかし、そういう「モノ」も開発しつくされた今、「モノ」をいかに壁側や人間側に取り込んでいくか。「丸でも角でもいいけど、本当にそういう傘立てが必要なのか?狭い玄関に傘立てを置く必要があるのか?壁にかけたり、傘の先を入れる溝さえあればいいのではないか」と前提を疑うことから始めるのがデザインであると深澤氏は言います。

深澤

あらゆるモノは「住宅の壁」か「人間側」に吸い込まれていく

結果、それまで家電として単体としての物体だったテレビも電子レンジも食洗機も、次々と壁の中に埋め込まれていき、テレビやパソコンや友達とのネットワークは、人が肌身離さず持ち歩く携帯電話やスマートフォンの中に埋め込まれていく。家は究極的には、様々な機能が埋め込まれた壁と、自分という生命体の2つだけの「モノ」にどんどん吸収されていく、ミニマムは最大のマキシマムという持論がとても面白いと思いました。

デザインは言葉力と定義力から始まる

マチス

画家マチスは全体を俯瞰するために長い筆を使って描いていた、と深澤氏。

深澤氏の話を聞いて印象的と思ったのは、言葉をつくりだす力と定義力です。「行為に相即するデザイン」「意識の中心」「ふつう」「輪郭」「典型」など、自らのデザイン哲学をワンワードで凝縮して分かりやすく表現してしまう力は、日本語・英語を問わず国や領域を超えて高い評価を得ている所以なのだと思います。

「美とは、人とモノと環境の関係が調和していることをいう。皆が美しいというのは、皆が同じ環境・状況・価値観を共有しているからであるが、これは時やあるきっかけで簡単に変わりうるもの。だから美しさは不変でも普遍でもない。デザインとは、美・世界・形を改めて定義づけ、空気(空間)に新たな輪郭を引く行為のことである」(深澤氏)。

こうした言葉による定義づけもそれだけで明確なのですが、自らデザインして国内外で評価されたプロダクトのビジュアル写真とともに説明されることで、日本だけでなく世界や老若男女誰もが納得できるのだと実感しました。

一見カタチがなくとらえどころのないデザイン。それを形作っているのは、曲線や直線とかの違いではなく、言葉とそれを表現するビジュアルイメージが根柢にあると気づかされたフォーラムでした。
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