なぜ、すき家のバイトは大量流失したのか
同じファーストフードでも、牛丼業界は少しばかり戦略のバランスが違っています。牛丼店チェーン化の波は、昭和40年代の吉野家のフランチァイズ展開により幕を開けました。50年代にすき家、松屋が相次いで業界参入し、今も熾烈な競争を繰り広げています。この業界において、積極的なコストリーダーシップ戦略をとったのは業界リーダーの吉野家ではなく、二番手、三番手のすき家、松屋でした。2000年代以降繰り広げられている「牛丼価格戦争」において、200円台の価格を真っ先に提示したのは松屋であり、それに追随したのはすき家でした。吉野家はキャンペーンとして1食200円台を実施するなど、コスト面での負担を勘案した低価格化ソフトランディング策をとります。その背景には、過去に行き過ぎたコストリーダーシップ戦略が会社更生法申請という同社の実質破たんを招いた苦い経験があると考えられます。吉野家の牛すき鍋定食は低価格でないものの大ヒットした
最近の話題ですが、昨冬の吉野家の牛すき鍋定食大成功を見て焦ったすき家は、同様の商品を急遽開発し店舗に新たなオペレーションを指示します。ところが、コストリーダーシップ戦略による徹底した低コスト化少人数オペレーション下でバイト店員の作業負担が極限を超え、すき家は労働力の大量流失による店舗休業が相次ぐという運営危機に陥りました。季節メニュー替わりにより現状はだいぶ落ち着いたようですが、他社が差別化戦略で取り入れたメニューをコストリーダーシップ戦略下のオペレーションで取り扱おうとした戦略的ミスをそこにうかがうことができます。戦略の組み換えは、容易なようで難しい。ひとつ間違えば、マネジメントにとって致命傷になりかねないことを示唆する事例であると言えるでしょう。