歌舞伎/はじめての歌舞伎観劇

コクーン歌舞伎「三人吉三」に行こう!後編

下座音楽も使わず、演出も今までの三人吉三とは大きく異なる。それでも、コクーン歌舞伎はお年寄りにも子どもにもおすすめできる新しい歌舞伎だった。伝統的な歌舞伎を活かしつつ、新たな挑戦を続けるコクーン歌舞伎をご紹介。

宗像 陽子

執筆者:宗像 陽子

歌舞伎ガイド

コクーン歌舞伎に行ってみよう。後編は、コクーン歌舞伎に行ってみてのレポートです。ガイドは「親子で楽しむ歌舞伎」を広めたいと考えていますが、コクーン歌舞伎は親世代と行ってもよし、子どもと行っても楽しめるおすすめの歌舞伎でした。

伝統的な歌舞伎を活かしつつ、新たな挑戦を続けるコクーン歌舞伎

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シアターコクーン入口

2014年の「三人吉三」のポスターを見て、現代劇みたいな舞台になるの?と思っていたガイドですが、そんなことはありませんでした(笑)。

伝統的な歌舞伎を活かしつつ、新たな挑戦を積み上げている「コクーン歌舞伎」は、20年たってますます進化し続けています。まず、従来の歌舞伎と違う点を述べてみます。

 

■演出家の存在
通常の歌舞伎では伝統的な型を踏襲して上演するため、演出家を立てて上演する演目は非常に少ないのです。

しかし、コクーン歌舞伎は演出家の串田和美氏の存在が大きく影響しています。

串田氏は第1回の「東海道四谷怪談」では芸術監督として、第2回以降は演出家として20年間のコクーン歌舞伎に携わり、中村勘三郎とともにコクーン歌舞伎を作ってきました。「手さぐりで作ってきた。戦いの20年だった」と言います。
今回は勘三郎亡きあとの初めてのコクーン歌舞伎。串田氏は今回の公演から「第二期コクーン歌舞伎」と位置付けています。

歌舞伎の伝統を大切にしつつ、現代にも伝えるための努力と挑戦が、多くの人に受け入れられるコクーン歌舞伎を作り上げたといえるでしょう。

■下座音楽を使わず
「三人吉三」の第1回にはテクノ音楽、第2回には椎名林檎の楽曲を用いたといいます。今回の音楽は、そのどちらとも違いました。

開演前からぼおっと薄暗がりの舞台には、カサコソと人の気配や音がしています。市井の人々の生活感は、これから出てくる三人吉三のアウトロー的な空気感と真逆のものでもありました。

シャカシャカ、コツコツ、ザワザワ、音楽は三味線や鳴物を使いませんが、心の中のザワザワした思いや、モヤモヤ、不安、それから生活の中から湧き出てくる音、そんなものがとても効果的に表わされていました。

稽古では、ワークショップを通して身近にあるいろいろなもので江戸の町の音を作ってみるようなこともしたそうです。時間と手間をかけて作り上げられた舞台であることを感じます。

■水の効果的な使い方
従来の歌舞伎と全く違うのは、舞台美術です。本物の水が舞台中央に湛えられ、その水のユラユラと揺れる様を照明が効果的に映し出します。水は従来の歌舞伎でも使われる小道具です。けれども、照明で水の揺らぎをここまで象徴的に映し出されている歌舞伎の演出を、私は見たことがありません。
コンパクトなシアターコクーン全体にゆらゆらと水が光ります。心のゆらぎをも表しているかのようです。

お坊とお嬢が大川端で争う場面では、タテもスピード感と迫力があり、刀がかち合うたびに数人の黒子が水をパシャンパシャンと打ち付けて、臨場感が高まります。

■歌舞伎役者以外の俳優も多く出演
歌舞伎役者以外の役者も多く出演しているのもコクーン歌舞伎の特色のひとつです。平成中村座にも出演している笹野高史をはじめ、国際的な舞台で活躍している笈田ヨシ、自由劇場出身の大森博史や真那胡敬二など、実力派の俳優たちがわきを固めます。これらの俳優たちが、歌舞伎役者たちに良い意味での刺激を与えたことは想像に難くありません。

また、コクーン歌舞伎を作り上げた功労者として十八世中村勘三郎の存在を抜きにすることはできません。巣鴨吉祥院の場での中村勘九郎の鬼気迫る演技を観ていて、声としぐさがあまりにも勘三郎に似ていて時折震えました。
通常の勘九郎の演技を観ていてもそういうことはあまりないので、勘三郎の霊が乗り移ったのかと思ったほど。

コクーン歌舞伎にかける勘三郎の思いを知れば、霊が乗り移ったとしてもおかしくないかもしれません。勘三郎の情熱が、舞台全体に引き継がれているのです。

お年寄りも、子どもも楽しめる

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キーワード解説も適切なパンフレットは事前によく読むのがおすすめ

さて、歌舞伎好きのお年寄りに、通常の歌舞伎と違うコクーン歌舞伎は勧められるでしょうか?答えは「イエス!」。

それは、しっかりと伝統的な歌舞伎が活かされているからです。セリフ回しはもちろんのこと、河竹黙阿弥が書いた「三人吉三」がしっかりと土台にあることを感じるので親世代が見ても十分満足できることでしょう。その上、コンパクトな会場では声がよく通り、非常にはっきりとセリフを聞き取ることができました。

子どもにもおすすめの理由は、展開が早く、わかりやすいことです。3時間15分の公演でも飽きることなく楽しめるでしょう。人間関係など、わかりにくいところはしっかり事前に予習をしておくことで、より楽しめると思います。

それではその他の情報について♪

■トイレ事情

最後にシアターコクーンのトイレ事情についてですが、ガイドは15分休みに2階のトイレ行列に並んでしまい、貴重な休憩がすべてトイレ行列で終わってしまいました。2階のトイレは女性の個室は4。1階は22あるので、1階、もしくはシアターコクーンからいったん出てしまったほうが得策です! 

■観劇後

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ロビーラウンジでゆったり休むのもいい。

観劇後は、感激でぼーっとしてしまい、すぐに現実社会に戻れそうもない。そんなあなたはBunkamuraの中をぶらついてみてはどうでしょう。

1階ギャラリーでは注目のアート作品を鑑賞できますし、地下1階の「ナディッフ モダン」は、美術系演劇系の本を中心に置く本屋さん。Bunkamuraの雰囲気に身をゆだね、しばし現実と非現実のはざまを行ったり来たりするのもまたよろしいかと思います。

コクーン歌舞伎「三人吉三」を観に行こう!前編はこちら

 

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地下1階をぶらつく。見上げればコクーン歌舞伎ののぼりが目に入る。

Bunkamuraシアターコクーン 
・住所:渋谷区道玄坂2-24-1
・TEL:03-3477-9111
■コクーン歌舞伎公演情報はこちら

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