ピアノ/ピアノあれこれコラム

梅雨どきのピアノトラブル~解決法と予防策

ジメジメと不快指数の高い梅雨。木とフェルトが使われているアコースティック・ピアノにとっても、湿気の多いこの時期はトラブルが起こりやすい憂鬱な季節。そこで今回は、ドイツの「ピアノマイスター」の称号をもつ伊藤正敏氏に、梅雨どきに起こりがちなトラブルとその解決法、予防策についてお話をうかがいました。

北條 聡子

執筆者:北條 聡子

ピアノガイド

ピアノにとっても憂鬱な梅雨

ピアノマイスター伊藤正敏氏の写真

ドイツがピアノ職人に与える最高国家資格である「ピアノマイスター」の称号をもつ伊藤正敏氏(横浜市青葉区の伊藤ピアノ工房にて)

■梅雨どきのピアノトラブル~INDEX~
・湿気の多い季節はピアノトラブルが起こりやすい季節
ジメジメして不快指数の高い梅雨。傘をさしながらの外出も億劫になり、家でゆっくりピアノでも楽しもうか……と弾き始めたら音に異変が!なんていうことも。木とフェルトが使われているアコースティック・ピアノにとって、湿気の多い梅雨はトラブルが起こりやすい憂鬱な季節。

そこで今回は、梅雨を上手に乗り越えるためのピアノ・ケアについて、ドイツの国家資格「ピアノマイスター」の称号を持ち、横浜市でピアノ工房を開いている伊藤正敏氏にお話をうかがって来ました。

梅雨どきに起こりやすいトラブルとは?

Q:梅雨になると起こりがちなピアノのトラブルには、具体的にどんなことがありますか?

A:通常、冬から春にかけての乾燥期間に部屋に置いてあるピアノは、中の木も乾燥しています。ところが、梅雨になり急激に湿度が高まると、ピアノの木材の部分が膨張し、それによって弦の張力が増したり、中の部品が変化し、部分的に音が狂ったり全体的なピッチ(音程)が変わるなど、ピアノの音が狂うことがあります

Q:以前、梅雨どきに私のピアノの鍵盤が下がったまま戻って来なくなり、練習が出来なくて困ったことがありましたが、それも湿気のせいでしょうか?

A:はい、アクション部品の木材やフェルトが湿気を吸う事により膨張し、様々な障害が起こることがあります。これは「スティック」と呼ばれる現象で、ピアノのアクション部分(メカニズム)の動きが鈍くなることが原因で、鍵盤が下がったまま戻らなくなるとか、鍵盤は動いているのに音が鳴らないなどのトラブルが起こることがあります。

Q:その他にはどのようなトラブルがありますか?

A:ピアノ全体が湿気を帯びると楽器全体の鳴りが悪くなる事があります。また、メカニズムの中の木材が曲がったりねじれたりすると、タッチのばらつきだけでなく、音色にもばらつきが生じることがあります。

梅雨どきに起こりやすいトラブル

□部分的に音が狂う
□全体的なピッチ(音程)が変わる
□鍵盤が下がったまま戻らなくなる
□鍵盤は動いているのに音が鳴らない
□タッチや音色にばらつきが出る

ピアノと雨模様のイラスト

湿度の高くなる梅雨の時期は、ピアノにとってもトラブルの起きやすい憂鬱な季節


トラブルが起きてしまった時の解決法

Q:湿気によるトラブルが生じてしまったら、どうすればいいのでしょうか?

A:アクション部分のトラブルや音色の変化が起きた場合は、一度部屋をエアコンで乾燥させてみて下さい。大抵どのエアコンにも除湿機能が付いていますので、1日~2日除湿して様子をみます。それでもダメな場合は、調律師に頼んで状態を整えてもらいましょう。

 

Q:エアコンで部屋を除湿してトラブルが解決すれば、特に問題はないということですか?

A:残念ながら、一度湿気を帯びて狂ってしまったピアノの音というのは、その時は直ったように感じたり、季節が巡り乾燥期になったとしても完全には元に戻りません。できれば一度調律師を呼んで、しっかりみてもらったほうがいいですね。

トラブル解決法

□部屋をエアコンや除湿機で乾燥させてみる
□調律師を呼んで直してもらう
伊藤氏が調律している写真

一度トラブルの起きてしまった音は完全には元に戻らない。プロの助けを借りよう


梅雨どきのトラブル予防策

Q:梅雨どきのトラブルを予防するために出来ることはありますか?

A:部屋の湿度をコントロールすることがポイントとなります。ピアノにとって適切な湿度は55%です。ピアノのそばに湿度計を置いておき小まめにチェックし、なるべく部屋の湿度を55%にキープするようにしましょう。

 

Q:エアコンの除湿機能を使えばいいのですか?

A:そうですね、家庭用のエアコンには大抵除湿の機能が付いていますから、一番手っ取り早く除湿するには使えます。ただ、ひとつ気をつけなければいけないのは、エアコンの除湿機能は気温を下げることになりますので、梅雨どきなどには寒くなり過ぎてしまうことがあります。やはり湿度をコントロールする為には、除湿器が良いと思います。これは、温度を下げることなく除湿ができます。

Q:梅雨どきのトラブル予防のキーワードは、ひとえに「除湿」なのですね。除湿機に頼る以外、他に方法はないのでしょうか?

A:基本的にはそうなのですが、せっかく湿度を調整しているのに、うっかりと自分で湿気を部屋に持ち込んでいる場合もあるのですよ。たとえば、土砂降りの雨のなか帰宅した時に、雨に濡れたレインコートや上着などを着たままピアノの部屋に入ったり、脱いで持ち込んだりすると、急激に室内の湿度が上昇してしまいますので注意してくださいね。

トラブル予防策

□湿度計を置き、除湿機やエアコンを使って部屋の湿度を55%に保つ
□濡れた服、レインコートを部屋に持ち込まない
エアコンの写真

ピアノに最適な湿度は55%!梅雨どきだけではなく年間通してチェックしよう


人にとってもピアノにとっても嬉しくない梅雨の湿気ですが、除湿器やエアコンを使って湿度をコントロールすることによって、ピアノを良い状態に保つことは可能です。湿度をチェックする習慣をつけて、トラブルフリーで上手に梅雨を乗り越えましょう!
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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