マイラー達が王座をかけて府中に集う
「安田記念」
競馬の世界で短距離に区分されるのは、1600m以下。その中で主要となるのが1200mと1600m。このうち1200mの頂上決戦は、3月下旬のG1高松宮記念(芝1200m、中京競馬場)で行われています。そして、1600mの王座決定戦が行われるのが6月上旬。G1安田記念(芝1600m、東京競馬場)です。
1600mは約1マイルであることから、「マイル戦」といわれます。JRAの場合、円熟期を迎えた4歳以上の古馬が、性別にかかわらず出走できる芝のマイルG1は、この安田記念と11月のG1マイルチャンピオンシップ(芝1600m、京都競馬場)のみ。ですから安田記念は、「上半期のマイル王決定戦」という位置づけです。
なお安田記念も、宝塚記念と同様、若き3歳馬の挑戦も可能。2011年のリアルインパクトのように、優勝を勝ち取った例もあります。
名手と名馬が見せつけた、圧巻の強さ
2003年~2007年にかけて活躍し、G1レースを5勝したダイワメジャー。2007年の安田記念も、栄冠はこの馬のものとなりました。G1レースを五つも制するほどの強さがありながら、毎回その勝ち方は僅差だったダイワメジャー。その理由は、競り合ったときにのみ本気を見せる性格の持ち主だったため。むしろ1頭で抜け出すと、気を抜いてしまうほどでした(※競馬ではこれを「ソラを使う」といいます)。
そのダイワメジャーの性格を完璧に把握していたのが、同馬と数多くのレースを共にした名手・安藤勝己騎手。この人馬の絆が存分に発揮されたのが、2007年の安田記念でした。
まずまずのスタートから、4番手のインコースを進んだダイワメジャー。レースを引っ張ったのはコンゴウリキシオーという馬で、このときまさに絶好調。他の馬に邪魔されず先頭で進むと強さを発揮するタイプで、この安田記念でも直線で後続を突き離しにかかりました。
対するダイワメジャーは、直線入り口で外に持ち出し進路を確保。さあこれからムチを入れて追い上げを開始……と思ったら、安藤騎手は一向にムチを入れません。むしろあえてスパートしないようにも見えます。
レースは残り200m。コンゴウリキシオーの逃げ足は衰えず完全に勝ちパターン。しかしここで安藤騎手が動きます。両手を大きく動かしてダイワメジャーにゴーサインを送ると、先頭を猛追。すぐにコンゴウリキシオーと馬体を併せると、まるで測ったようにゴール前で交わしたのでした。
2007年安田記念のレース映像(ダイワメジャーは白帽の2番)
一見、危険に見えたダイワメジャーのレース運び。しかしこれはすべて、安藤騎手の狙い通りでした。つまり、早めに抜け出して1頭になると、ダイワメジャーは気を抜いてしまう。そうなれば、他の馬がゴール前で急追した際に出し抜けを食らう可能性があります。
だからこそ安藤騎手は、あえて最後までスパートせず、ゴール前で先頭に並ぶようにしたのでした。こうなれば、ダイワメジャーが気を抜くこともなく、ゴール前では本気を出す形を取れます。
何よりすごいのは、結局最後まで安藤騎手がムチを使わなかったこと。つまりはそれほどダイワメジャーの能力に自信を持っており、そしてきっちりゴール前で先頭を奪取したのです。もしこの形で先頭に間に合わなければ、批判にさらされることは想像に難くありません。名手と名馬の信頼関係が発揮された一戦でした。
6月の注目レースはこの二つですが、一方で、新世代の馬たちが登場するのも6月。JRAの場合、競走馬は2歳の6月からデビューが可能となり、1年後の日本ダービーを目指して、それぞれ経験を積んでいきます。
そのような未来のスターホースの戦いも6月の見どころ。気温に負けない、6月の熱いレースをぜひご覧ください。
※レースの情報は、すべて2014年5月末時点のものです。
(リンク)
6月のレーシングカレンダー|JRAウェブサイト
宝塚記念 歴代勝ち馬|JRAウェブサイト|データファイル
安田記念 歴代勝ち馬|JRAウェブサイト|データファイル