ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

気になる新星インタビューvol.7 神永東吾(2ページ目)

全国公演を経て目下、東京凱旋公演が上演中の『劇団四季ソング&ダンス60 感謝の花束』。ボーカルパートにキャスティングされている俳優の一人で、出演日には溌剌とした姿を見せ、「あの俳優さん、どなた?」と客席を沸かしているのがこのかた、神永東吾さんです。入団五年目、既に『ジーザス・クライスト=スーパースター』タイトルロールも演じている新進気鋭。その素顔に迫ります!*『JCS』観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

運命に導かれるように舞台の道へ


――非常にナチュラルで、豊かな語彙の日本語をお話しになりますが、神永さんは韓国のご出身なのですよね。09年に入団される前から日本語の勉強をされていたのですか?

「いえ、来日してからです。来日して初めてひらがな、カタカナ、漢字を学びました。だいぶ掴めてきたような気もしますが、まだまだ勉強が足りませんね。初舞台は『エクウス』の馬役だったのですが、自分に台詞は無くても他の方の台詞に反応しなくてはいけないので、韓国語のできるスタッフに助けてもらいながら、体に入れていくのに苦労した思い出があります」

――お芝居を目指したきっかけは?

『ガンバの大冒険』シジン役。撮影:阿部章仁

『ガンバの大冒険』シジン役。撮影:阿部章仁

「もともと歌は好きで、聖歌隊で歌ったりはしていたのですが、演劇には全く縁が無く、地元の大学では経済を勉強していました。在学中に兵役に行ったのですが、そこには様々な団体が慰安に訪れていまして、その中の一つがミュージカル。聖書物語をミュージカル仕立てで演じていて、“歌を歌いながら演じるという世界があるんだな、面白そう、やってみたい”と思ったんです。兵役を終えてすぐ芸術大学を受験し、1年生から演劇を学び直しました。3年生の時にそろそろ進路を決めないと、というタイミングで劇団四季の研修団に参加したのが、入団のきっかけです。今から思えば、運命に導かれたのかもしれません」

――最近は韓国でもミュージカル公演が花盛りですが、なぜ来日を決意されたのですか?

「研修で先輩がたのお話をうかがうなかで、劇団四季には俳優にとって素晴らしいサポート環境があることに魅力を感じました。韓国人の先輩方もたくさん活躍されているし、レパートリーも広いし、勉強できることがたくさんある。それまで海外に行ったことがなかったので、“海外暮らしを体験してみたい”という好奇心もありました」

――研修の最後にオーディションを受けられたのですね。どういう内容だったのですか?

「自由曲2曲を歌うというもので、僕は大学でも勉強していた『ウェストサイド物語』の“マリア”と『オペラ座の怪人』の“ミュージック・オブ・ザ・ナイト”を歌いました。そこで運よく合格できたことで、最終的に決断しました」

――来日されて、多少なりともカルチャーショックを受けながらの役者修業だったかと思います。

「はい、故郷は夜中でも通りで歌を歌っているような賑やかなところでしたが、こちらに来ると稽古場の周りは住宅街で、夕方早くから静まり返っているのには驚きました。レッスンも、もともとダンスはそれほど得意ではなかったので本当に苦労しました。でも、自分の人生です。せっかく自分で選んだ道なのだから、お客様にいい舞台を楽しんでいただけるような俳優にならなければいけない。絶対にあきらめてはいけないんだと思い続けました」

――多くの方が神永さんのお名前をインプットしたのが『ジーザス・クライスト=スーパースター』かと思います。11年にアンサンブルとペテロを演じ、12年にペテロに加え、ジーザスに挑戦。昨年はジーザスを演じられました。
『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:上原タカシ

『ジーザス・クライスト=スーパースター』撮影:上原タカシ

「それまで、海外版の『JCS』を見た限りではそれほど強い魅力は感じなかったのですが、研修の時に四季のリハーサルを観て衝撃を受けました。エルサレム版だったのですが、まるで史実のような、本当に起こっているドラマのようなリアルさがあって、これならぜひ演じてみたい、と思った舞台です。ジーザス・クライスト役は、クリスチャンでもある自分にとっては畏れ多い役でしたが、民衆のことを思いつつ彼らの心が離れて行ってしまう、けれども磔になって死ぬ瞬間まで、決して自分は民衆を見捨てないという心を大事に、毎回、演じようと努めました」

――目標にする役者さんはいらっしゃいますか?

『李香蘭』王玉林役。撮影:上原タカシ

『李香蘭』王玉林役。撮影:上原タカシ

「劇団には素晴らしい先輩方がたくさんいらっしゃいますが、やはり劇団創立メンバーの日下武史さんはとても尊敬しています。『エクウス』にはじまって『ハムレット』『赤毛のアン』と様々な舞台を拝見しましたが、非常に俳優としての情熱をお持ちだと感じます。基本を大事に、その時々に発生する課題をクリアされていく様子を見ていて、プロとはこういうことかと学ばせていただいています。大先輩で畏れ多いので、なかなか話しかけることもできないのですが、あたたかいエネルギーに満ちていて、瞳には深いものを湛えていらっしゃる。憧れの存在です」

――では、役者としての夢をお聞かせ下さい。

「日本で演じている以上、日本語の台詞で感動していただけるよう、日本語をもっともっと体に入れて行きたいです。歌もまだまだ修行が足りません。もっとうまくなりたいです。そのためには……今回の『ソング&ダンス60』で、やはり稽古を重ねること、経験を積むことに尽きると思いました。センスのある人なら、早くコツを掴むのかもしれないけれど、僕はそういうタイプではないので、これまで通り、こつこつ積み上げていけたらと思っています」

*****
思慮深く、丁寧に語る神永さん。「歌う時は、何でも自分の色に染めるのではなく、その曲その曲の世界を大切に表現したい」という姿は誠実そのものです。これまでは内向的な役柄が多かったそうですが、観客を楽しませる、“笑顔にする”ことが何よりの使命である『ソング&ダンス60』で、新境地を開拓。今後もこつこつと、神永さんのペースで夢に近づいて行くことを願ってやみません。

*公演情報*『劇団四季ソング&ダンス60 感謝の花束』上演中~2014年8月3日=自由劇場

*次ページで神永さんがタイトルロールを務める『ジーザス・クライスト=スーパースター』観劇レポートを掲載!*

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