「やんわり差別」社会を変えるために
ちなみに、任天堂が謝罪した件のニュースに対して、Yahoo!ニュースでは読者のコメントがつけられるのですが、そのコメントがひどい(まるで二次被害…)と言われています(当該ニュースは削除されてしまったのですが、こちらも同様のコメントがついています。多少ダメージを受けるかもしれませんので、ご注意ください)ぼくらは日々、ネットの空間の中でこのような心ない言葉にさらされています。現実社会でも、たとえば職場で、男性社員による女性やセクシュアルマイノリティを蔑むような言動が日常化しています(東京レインボーウィークの一環として行われた「LGBT職場環境アンケート報告会」でも、さまざまな問題が浮き彫りになりました)
「日本は差別が少ない」「殺されることはない」「ぬるま湯だ」などと言われたりしますが、たとえ勇気を出して周囲にカムアウトしても、陰でバカにされたり(「ネタ」として嘲笑されたり)、職場にいづらい空気になったり、ネットで叩かれたりすることが容易に想像できます。欧米のようなあからさまな差別ではなく、陰湿な、真綿で首を絞めるような感じなのです(言ってみれば「やんわり差別」)。これが、当事者が表に出ていきづらい要因のひとつだと思います。
石原元都知事のように堂々と差別してくれたら抗議もしやすいのですが、陰で(匿名で)嘲笑されたり、はっきりした理由を言わずに排除されたり(「いじめ」ですよね)という状況では、対処も困難。そんな状況で孤軍奮闘してきた当事者もたくさんいますが、相変わらずマスコミ(特に男性向け週刊誌)はセクシュアルマイノリティを面白おかしくネタにし、先述のゲームのように悪質な(ずさんな)差別意識が無自覚に現れ出てきたり、企業はLGBTの何たるかを理解しないままだったり…つまり、日本社会の「やんわり差別」が蔓延し、放置されてきたわけです。
「日本は欧米に比べて30年は遅れてる」と言われたりしますが、欧米とは異なるタイプの「やんわり差別」にどう立ち向かっていけばよいのか?という日本独自の難しさがあったことは否めないと思います。そんななかでも、少しでもセクシュアルマイノリティが生きやすい社会になることをめざし、これまでにたくさんの人たちが声を上げ、行動し、だんだん世間も変わってきています。
今年20周年を迎えた東京のプライドパレードは、決して暴力に訴えることなく、あくまでも平和的な祝祭として渋谷の街を行進し、世間の方たちにも支持を広げてきました。今年は安倍昭恵さんが「Living Together」フロートに乗って笑顔で手を振り(歴史的!)、夏木マリさんがステージのトリを飾りました。広場にはチェリオとアルファロメオの車が展示され、9ヵ国の大使館のブースが並び、GoogleやIBM、マイクロソフト、フィリップス、GAPなど多くの企業も協賛していました。駐日英国大使や乙武洋匡さんらの来賓スピーチもありました。家族連れが多かったのも印象的で、中には「子どもの教育のために」とわざわざお子さんを連れてきたお母さんもいらっしゃいました(詳しくはこちら)
それから、2003年に初めてトランスジェンダーであることを公表して上川あやさんが世田谷区議に当選(翌年には性同一性障害特例法が施行されました)、2007年にはレズビアンであることをカムアウトした元大阪府議の尾辻かな子さんが参院選全国比例区にチャレンジ、2011年にはゲイであることをカムアウトした石坂わたるさんが中野区議に、同じく石川大我さんが豊島区議に当選し、LGBTの権利を訴えてきました。
「LGBT職場環境アンケート報告会」を主催したNPO法人虹色ダイバーシティは、たくさんの企業や官公庁に出かけていってLGBT講習会を行い、支援者(アライ)を増やすことに成功しています(その成功例の最たるものが淀川区です)。そして、NPO法人グッドエイジングエールズや杉山文野さん(「ハートネットTV Our Voice」のMCなどをつとめた方)、Re:Bit(LGBT成人式を主催)、NPO法人ピアフレンズなどとともに東京レインボーウィークを成功に導きました。
企業の中には、いち早く90年代からゲイイベントに協賛してきたタワーレコードやBODY SHOPのようなフレンドリー企業もありますし、2000年代に入ってからは、SoftbankやGoogle、アルファロメオなどたくさんの企業がLGBTイベントに協賛してくれるようになりました。
メディアに目を向けてみると、2008年から『ハートをつなごう』(Eテレ)などがLGBTやHIVを特集するようになり、『GQ』『東洋経済』『週刊ダイヤモンド』といったビジネスマン向け雑誌でLGBT特集が組まれるようになりました。2007年から『モーニング』でゲイカップルの日常を綴った「きのう何食べた?」が連載されるようになったのも素晴らしいと思います。
2010年からは「Tokyo SuperStar Awards」も開催されるようになり、そうしたLGBTフレンドリーな企業やメディアを表彰するという素敵なカタチで、アライの輪を広げ、社会を変えることに貢献してきました。
道のりは遠く、歩みは決して速くないかもしれませんが、それぞれの持ち場で、あるいはこうして年に一度、大きく連帯して、がんばってきたのです。「いつか虹の向こうに」行けることをめざして。