濱田めぐみ 福岡県生まれ。95年から10年まで劇団四季に在籍し、『美女と野獣』『アイーダ』『ライオンキング』『ウィキッド』など様々な作品でヒロイン役を演じる。退団後も『ボニー&クライド』『アリス・イン・ワンダーランド』『シラノ』『ラブ・ネバー・ダイ』などで活躍。『カルメン』の後、8月30日~9月2日には赤坂ACTシアターで鹿賀丈史とのコンサートを予定している。(C) Marino Matsushima
逆境のなかで信念を貫くヒロイン女優といえば、まず思い浮かぶのがこの方、濱田めぐみさん。『ライオンキング』では独裁者に抗い、『アイーダ』では救国と愛という究極の選択に悩み、また『ウィキッド』では「悪者」の汚名を着せられても権力に屈しないヒロインを力強く、鮮やかに体現してきました。その彼女が今年、『ラブ・ネバー・ダイ(関連記事はこちら)』のクリスティーヌに続いて取り組んでいるのが『カルメン』のタイトルロール。コロラトゥーラ・ソプラノという高い声域の役ということもあって、多くの方から“意外な配役”と受け止められたクリスティーヌをご自身はどのように演じ、またそれが『カルメン』にどう影響してゆきそうか。まずはここからうかがいました。
『ラブ・ネバー・ダイ』で新境地を開拓
――『カルメン』の台本を拝読して、テーマ的な部分でもしかしたら『ラブ・ネバー・ダイ』と通じるものがあるのかなという気がしました。ご自身は2作品の「繋がり」を意識していらっしゃいますか?「公演期間自体が近かったし、役がというよりも作品が繋がっているから、おのずとクリスティーヌとして作り上げてきた何かが、カルメンに影響してくるのではないかなと思います。“無意識”に意識しているかもしれないですね」
『ラブ・ネバー・ダイ』撮影:渡部孝弘 写真提供:ホリプロ
「ストーリー上の立ち位置が難しいんですよね」
――私も海外版の『ラブ・ネバー・ダイ』の映像を観た時、クリスティーヌの最後の決断シーンで「あなたお母さんでしょう、しっかりして!」と思ってしまったのですが(笑)、濱田さんのクリスティーヌを拝見していると、彼女は本質的に“芸術家”であって、その“芸術家魂”が呼びさまされた結果があの決断なのだ、これは一つの“自己実現”の物語なのだ、と腑に落ちました。ご自身はどのように意識して演じていらっしゃったのでしょうか。
「無意識でやっていたので、あまり覚えていないんですね。ここはこうやろう、ああやろうというのは、お稽古場では発想していたと思うんですけど、最終的には感性に落とし込んでいるので。例えば音が聞こえると振り向く、それは彼女の音楽に対して持って生まれた感受性がそうさせるんですね。お父さんを亡くして孤児になった彼女を救ってくれたのが音楽であり、音楽の天使であるファントムは自分の心のよりどころ。恋とか愛という以前に、自分の人生の指針を彼に委ねていたというのがまずあって、ファントムとは音楽という次元でまず繋がっているんですね。そういう(芸術至上主義的な面のある)クリスティーヌにまず“お金がいるの”と歌わせるところから始まる『ラブ・ネバー・ダイ』は凄いなと思いました。“お金”“結婚生活”“子育て”といったものは彼女にとって一番苦手なものじゃないですか。その彼女を最悪の窮地に置くところから始まるわけですから」
――クリスティーヌを演じる感覚は、公演中に変わって行きましたか?
「変わりましたね。より、色が濃くなったというか、より雰囲気に包まれるようになりました。ロイド=ウェバーの世界観を感じ取れるようになったということかな。メロディラインや言葉の一つ一つに敏感になりました。特にネガティブな言葉に、舞台上でびくびくするようになりましたね。クリスティーヌとして、ファントムの子を産んでいるという後ろめたさがラウルに対してあるのでしょう。彼女の感覚、感じ方がよりクリアになった感じですね」
――「Love Never Dies」を歌ってファントムとの愛を確認できたことで、クリスティーヌは満たされてエンディングを迎えたのでしょうか。
「あの時には、自分が持っている愛というものをファントムに伝え終わったなという感覚がありました。二人の愛の結晶を彼に渡すことができたという意味で、心残りは無かったんじゃないでしょうか。そのことによって“愛は続く”わけですしね」
――非常に高い声域のお役でしたが、以前からああいうお声をお持ちだったのですか?
「ピアノを弾きながら練習で“は~”と発声したりはしていましたが、あそこまで喉の筋肉を整えて高い声を出したのは初めてです。高音といったら以前、『キャッツ』で出したくらいですね。今回、筋肉が整ったことで声のコントロールがしやすくなったし、(歌える)範囲が広がったと感じています」
――『ラブ・ネバー・ダイ』は濱田さんにとって大きな経験でしたか?
「大きかったですね。市村正親さん、鹿賀丈史さんという大先輩お二人と共演させてもらったというのが一番大きかったですね。劇団四季の大先輩で、偉大な存在ですから、その方々と、しかもダブルキャストでお相手させてもらえて、身が引き締まるとはこういうことかと思いました。市村さんからは、楽屋での皆さんとのコミュニケーションのとり方や、役は成長していくということですとか、鹿賀さんからも、役に対しての打ち込み方、ストイックで自分に対して完璧以外許さないという姿を拝見して、多くを勉強させていただきました。再演、ですか? 今は終わったばかりで、まだクリスティーヌ・ダーエという感覚にすぐ戻れる感覚があるし、自分の中で役を演じるということは“一つの仕事”ではなくて、“一つの生きるすべ”なので、またそういうチャンスが巡ってきたら、その時に全力投球してやりたいなと思います」
*次ページでいよいよ『カルメン』、そしてワイルドホーンの音楽について語っていただきます。