子どもに恋の絵本は早すぎる?
「子どもに恋の絵本なんて必要ない!」という声があります。でもたとえ恋の話でも、誰かと誰かが幸せな結末を迎えるお話は、読んでいる私たちの心まで温かくなって幸せのお裾分けをいただいたような気持ちになりませんか? その意味で、小さな子どもたちに優しい恋のお話を読んであげるのも良いのではないかと思います。今回は、友情と恋のはざまで互いの気持ちを確かめ合っていく少年と少女の、ちょっぴり甘酸っぱい想いを描いた絵本をご紹介します。ただし主人公の2人はスポーツマン&スポーツウーマンで、表面上は甘さとは程遠いスポーツマンらしいストレートな言葉のやり取りが交わされます。
友だち以上初恋未満の2人から始まる物語『サウスポー』
ジャネットとリチャードは大の仲良しでした。バスで一緒に通学したり、トレーナーや漫画の本を貸し借りする仲なのです。ところがリチャードの野球チームに入りたかったジャネットの申し出を彼が断わったことから、思いがけず手紙によるケンカが始まります。「もうバスのせき とってやらないからな。」と少年が書けば、「1回戦は28対0でまけたんだってね。」と少女が応酬します。しかも「あたし、うちの金魚の名前かえたんだ。もうリチャードじゃなくて、スタンリーっていうの。」というダメ押しのひと言を返します。2人は、そんな他愛のない(けれどもかなりトゲがある)言葉のやりとりを重ねていきます。
おやおや! ケンカするほど仲がいいって本当ですね。2人を見ていると、「相手をよく理解しているからこそ、相手に響く言葉を選んでケンカができるのだ」ということがよくわかります。ノートの切れ端に書かれた手紙の言葉の1つ1つが相手の胸に突き刺さるたび、激しくなるはずのケンカがなぜか少しずつ収束に向かうのは、2人がそのことに気付いたからに違いありません。
面と向かって話すより手紙の方が気持ちが伝わることもありますね
さて、この絵本を読むにあたりみなさんに1つだけお願いがあります。 それは裏表紙を見逃さないで下さいということ。お話を読んだ後で裏表紙を見ていただくと、2人の間に芽生えたばかりの淡い恋心が感じられて、大人の読者は胸がキュンとなるはずです。
もちろん小さなお子さんたちには友情を描いた絵本として楽しんでいただけます。でもいつか、そのお子さんたちが成長し再びこの絵本を手にしたとき、絵本の中にホンワカ漂う恋心の機微を感じとってくれたら嬉しいですね。 お父さん・お母さんにとってはきっと、その日が楽しみな絵本になることでしょう。
【書籍DATA】
ジュディス・ヴィオースト:作 はたこうしろう:絵 金原瑞人:訳
価格:1620円
出版社:文溪堂
推奨年齢:6歳くらいから
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