ご存知『かいじゅうたちのいるところ』には別訳があった!
海外の有名なロングセラー絵本の1つに、モーリス・センダック作『かいじゅうたちのいるところ』(原題:WHERE THE WILD THINGS ARE)があります。アメリカで発表された当時、大人たちからはすこぶる評判が悪かったのに、子どもたちから圧倒的な支持を受け、翌年にはコルデコット賞(※)を受賞し、発行部数は全世界で2000万部を超えているという絵本です。そんな『かいじゅうたちのいるところ』ですが、日本での初出は昭和41年。現在の絵本とはまるで違う邦訳で、あの三島由紀夫やライシャワー元駐日大使夫人のハル・ライシャワーなど、そうそうたるメンバーが監修を務めていたというのですから驚きです。
アメリカ新絵本シリーズより『いるいるおばけがすんでいる』
こちらの表紙が、日本で最初に出版された『WHERE THE WILD THINGS ARE』の邦訳『いるいるおばけがすんでいる』(ウエザヒル出版社)です。背表紙に赤が使われていたり、書名のフォントが違っていたりと、皆さんが普段手にされる『かいじゅうたちのいるところ』とは、雰囲気が違っていますね。ですが、一番の違いは、その訳文にあります。『いるいるおばけがすんでいる』では、調子の良い七五調の訳文が並びます。
例えば、『かいじゅうたちのいるところ』の冒頭は、
と始まりますが、『いるいるおばけがすんでいる』では、ある ばん、マックスは おおかみの ぬいぐるみを きると、いたずらを はじめて
という具合です。声に出して読んでみると、とてもリズミカルで読みやすいことに驚かされます。「アメリカ新絵本シリーズ」は、翻訳する際に、美しい日本語で訳出することを目指したそうで、出版に関わった人たちの絵本に対する想いがしのばれますね。ところが、そのわずか10年後には、もう出版社がなくなっており、皆さんがご存知の『かいじゅうたちのいるところ』が別の出版社から発行されることになるとは、誰も予想だにしなかったことでしょう。あたりが くらく なりました
マックス ぼうやの せかいです
「こんやは なにを しようかな
おおかみ ごっこを してみよう」
人間の足を持つ、表紙のかいじゅうは誰だ?
『かいじゅうたちのいるところ』は、やんちゃな少年マックスが、度を過ぎたいたずらのせいで母親に怒られ、想像の世界でかいじゅうの国へ行き、その国の王様になるというお話です。この空想の面白さと、空腹が現実世界にマックスを引き戻すきっかけになるという、いかにも子どもらしいお話の展開が楽しい絵本です。実は、私は、表紙にえがかれた、人間の足を持つかいじゅうの姿が不思議でなりませんでした。お話の中に出てくる人間は、マックスだけのはず。しかも、その他のかいじゅうたちの中に、人間とおなじ手足を持つものはいません。
それに、後ろに描かれた船の絵は、一体どうしたことでしょう? 絵本の中でマックスが乗り込んだ船の右舷には、「MAX」と名前が入っているのですが、表紙の船には名前がありません。では、この船は誰のものなのでしょうか?
もし、この船が、表紙に描かれたかいじゅうのものなら、このかいじゅうも、マックス同様に着ぐるみを着ているのではないかしら? そして、このかいじゅうもまた、現実の世界から、空想の世界に遊びに来ているのではないかしら? もしそうなら、このかいじゅうの正体はこそ、私たち読者なのでは? 表紙を見るたびに、そんな思いが湧き上がってくるのですが、いかがでしょうか?
もちろん、表紙のかいじゅうの正体は、あかされぬままですが、「君たちは、絵本を開けばいつだって好きな時に、空想の世界で遊ぶことができるんだよ。さあ、想像の世界へと旅立つ船に乗って、絵本の世界に出かけよう!」表紙の絵は、センダックからのそんなメッセージのような気がしてなりません。
【書籍DATA】
モーリス・センダック:作 じんぐうてるお:訳
価格:1512円
出版社:冨山房
推奨年齢:4歳くらいから
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