「観音の里」長浜
琵琶湖の北東部に位置する滋賀県長浜市は、古くより仏教が栄え、とくに観音菩薩が厚く信仰されてきました。私もこの町に魅せられて何度も訪れていますが、観音様にお参りすると、それぞれのお寺やお堂を管理されている世話役の皆さんが忙しい仕事の合間を縫って温かくお迎えしてくださり、そしてどの方もまるで自分の家族の一員のように「我が町の観音様」のことをとても嬉しそうにお話してくださいます。そう、ここは観音様と人々が共にずっと暮らしてきた「観音の里」なのです。
そんな長浜市の観音信仰文化を伝える展覧会『観音の里の祈りとくらし展-びわ湖・長浜のホトケたち-』が東京藝術大学大学美術館で開催されています。会期は2014年3月21日(金・祝)~4月13日(日)。人々によって大切に守られてきた長浜市の観音様たちが初めて東京までお出ましになられました。
『観音の里の祈りとくらし展』会場風景。観音像18体、すべて東京初出展
戦乱を乗り越えた観音様と人々の絆
観音菩薩はこの世の全ての人々をあらゆる悩みや苦しみから救ってくださる仏様として、我が国では大変人気のある仏様の一人です。現在長浜市には100体を超える観音像が残されていますが、その多くが住職のいないお寺やお堂にまつられており、それぞれの地域の人々の手によって「村の守り仏」として長年にわたって大切にまつられてきました。そんな観音様と人々の関係を伝えるのが、赤後(しゃくご)寺の千手観音立像。こちらも地域の人々によって長年守られてきた観音様です。千手観音像は通常42本の腕を持った姿で表現されるのですが、こちらの観音様の現在の姿を見ると腕はわずか12本のみ、そしてその12本も全て手首から先を失っています。
この地では姉川の戦い、賤ヶ岳の戦いなど、幾度も戦乱が繰り広げられましたが、その度に村人たちは観音様を川や池の中に沈めたり、土の中に埋めたりして、兵火から守り抜いてきました。赤後寺の観音様の現在の姿もそうした戦乱を乗り越えてきた証し。観音様と人々との強い絆を今日に伝えています。
赤後寺千手観音立像(平安時代) ※本展出陳作品