音楽一家に生まれた少年が、縁に導かれてミュージカルの演出へ
――TETSUHARUさんはダンサー出身でいらっしゃいますが、高校、短大では演劇科で演劇を学んでいらっしゃったのですね。もともと演劇少年だったのですか?「いえ、もともとはミュージシャンを目指していました。父がジャズミュージシャン、兄が作曲家、姉がジャズシンガーと言う音楽一家に育ち、特に打楽器が好きで、アフリカやサルサのリズムを紐解いていた時期もあります。高校と短大で演劇科に行ったのは、表現として、演劇は何かの肥やしになるんじゃないかと思ったからです。音楽もダンスも自分で学べるけど、演劇の勉強って一人では限界があるし、専門的なところに行かないと勉強できないのでは、と。
行ってみて驚いたのが、高校では一つのメソッドをベースに勉強していたのですが、短大に入ったら授業ごとに異なる演出家が、共通する部分もないわけではないけど、それぞれ違う方法論を教えてくれるんです。“最終的に自分に合うものを選びなさい”というスタイルなんですね。混乱するけど、様々な勉強をさせてもらったことが、今ではよかったなと思えます。
学生時代は歌舞伎座大道具でアルバイトをしたりもしていました。舞台装置の裏に隠れて、芝居のタイミングで紐をぱっと引っ張って装置のパネルが落ちるようなことをやったり、お風呂の掃除をしたり。スタッフの中では、黒衣さんは唯一舞台で見えてもいい存在で、アルバイトの僕からすれば“スター”。いつも黒衣の人たちをかっこいいなあと思ってみていました。
卒業後、ドラマーとダンサーのどちらに行くかを決めかねていて、どちらもやっているうちにだんだんダンスの方に魅力を感じるようになり、そちらに絞ることにしました。ミュージカルのアンサンブルや、アーティストのバックダンサーなども経験して行くうちに、振付を担当するようになったんです」
――SMAPや安室奈美恵さんら、J-POPアーティストの振付を数多く担当されつつ、舞台作品の振付も手掛けるようになったのですね。
「アーティストのために一曲の中のドラマを作るということと、ストーリーのあるミュージカルの振付を作るということは、基本的には同じですがアプローチは異なります。基本的には踊る人がキラッと光るために、どこをつついたらいいかを追求するわけですが、舞台の方が一つ一つの動きに意味がでてくるので、ストーリーと関わりなく“今カッコいいもの”を追求すればいいというものではないんですね。その“ひとひねり”の楽しさを経験して、(舞台の仕事に)引き寄せられて行きました。ストーリー性のあるダンスステージを作ったことがきっかけで、“こういうものを創るなら、言葉のあるミュージカルも出来るのでは”ということで、演出までお声がかかるようになってきたんです」
――多くのミュージカルファンにTETSUHARUさんの名前が刻まれたのが、振付を担当された『ロミオ&ジュリエット』だったかと思います。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘
――振付家として、演出家としてどんなポリシーをお持ちですか?
「演者が一番気持ちよく、なおかつしっかりそのシーンで存在し、そしてそこで何を一番言いたいかが分かる振付を考えています。僕が作ることで僕の主張は自然に出てくると思うので、変にこだわったり、演者に合わないのに絶対に変えない、というようなことはしません。それよりも、今このシーンで言いたいことが表現できているかということに尽きてしまうんですね。
演出・振付を担当した舞台『タンブリング vol.4』
――では最後に、今後どんな表現者でありたいとお考えですか?
「古いものに囚われることなく、自分の中の枠を大きくしたいし、もしかしたら枠自体、いらないのかもしれませんね。“お芝居って、ダンスってこうでしょ”という定義をもっといい意味で広げたいし壊したいし、結び付けたいし、その中で自分の世界観みたいなものが出来上がったらいいなと思います。自分がやりたいと思ったものを常識などに囚われず、やれる自分になれたらいいなと思います」
――『イン・ザ・ハイツ』、開幕が楽しみです。
「いやあ、(インタビューのおかげで)クオリティのハードルが上がっちゃいましたね(笑)」
ダンサー出身でありながら、演劇学校で一流の新劇演出家たちの講義を受け、また振付家として様々な演出家と仕事をしてきた経験を活かし、演出家としても着実にキャリアを積んで来ているTETSUHARUさん。打楽器を志していたことでラテン音楽への造詣も深い彼は、『イン・ザ・ハイツ』の芯を的確にとらえ、日本版を創りだすディレクターとして、これ以上ない人選であると言えましょう。演出家として異色のルートを辿ってきた彼のこれからとともに、舞台への期待が膨らみます。
*公演情報*『イン・ザ・ハイツ』
■公演日/劇場
・4月4日(金)~4月20日(日)/Bunkamuraシアターコクーン
・4月25日(金)~4月27日(日)/森ノ宮ピロティホール
・4月30日(水)/福岡市民会館
・5月3日(土)~5月4日(日)/中日劇場
・5月10日(土)~5月11日(日)/KAAT神奈川芸術劇場ホール
*次ページにて観劇レポートを掲載*