ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.1『インザハイツ』演出 TETSUHARU(2ページ目)

ミュージカルの創造に携わる方々にお話を聞くこのコーナー、第一回はラテン系移民の夢と絆を描き、トニー賞4部門を受賞した傑作『イン・ザ・ハイツ』で、演出・振付を担当しているTETSUHARUさん。SMAPやAKB48などJ-POPの振付師としても知られる彼が大作ミュージカル演出に至るまでを、意外な(?)経歴を含め、うかがいました。*観劇レポートを追記掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


音楽一家に生まれた少年が、縁に導かれてミュージカルの演出へ

――TETSUHARUさんはダンサー出身でいらっしゃいますが、高校、短大では演劇科で演劇を学んでいらっしゃったのですね。もともと演劇少年だったのですか?

「いえ、もともとはミュージシャンを目指していました。父がジャズミュージシャン、兄が作曲家、姉がジャズシンガーと言う音楽一家に育ち、特に打楽器が好きで、アフリカやサルサのリズムを紐解いていた時期もあります。高校と短大で演劇科に行ったのは、表現として、演劇は何かの肥やしになるんじゃないかと思ったからです。音楽もダンスも自分で学べるけど、演劇の勉強って一人では限界があるし、専門的なところに行かないと勉強できないのでは、と。

行ってみて驚いたのが、高校では一つのメソッドをベースに勉強していたのですが、短大に入ったら授業ごとに異なる演出家が、共通する部分もないわけではないけど、それぞれ違う方法論を教えてくれるんです。“最終的に自分に合うものを選びなさい”というスタイルなんですね。混乱するけど、様々な勉強をさせてもらったことが、今ではよかったなと思えます。

学生時代は歌舞伎座大道具でアルバイトをしたりもしていました。舞台装置の裏に隠れて、芝居のタイミングで紐をぱっと引っ張って装置のパネルが落ちるようなことをやったり、お風呂の掃除をしたり。スタッフの中では、黒衣さんは唯一舞台で見えてもいい存在で、アルバイトの僕からすれば“スター”。いつも黒衣の人たちをかっこいいなあと思ってみていました。

卒業後、ドラマーとダンサーのどちらに行くかを決めかねていて、どちらもやっているうちにだんだんダンスの方に魅力を感じるようになり、そちらに絞ることにしました。ミュージカルのアンサンブルや、アーティストのバックダンサーなども経験して行くうちに、振付を担当するようになったんです」

――SMAPや安室奈美恵さんら、J-POPアーティストの振付を数多く担当されつつ、舞台作品の振付も手掛けるようになったのですね。

「アーティストのために一曲の中のドラマを作るということと、ストーリーのあるミュージカルの振付を作るということは、基本的には同じですがアプローチは異なります。基本的には踊る人がキラッと光るために、どこをつついたらいいかを追求するわけですが、舞台の方が一つ一つの動きに意味がでてくるので、ストーリーと関わりなく“今カッコいいもの”を追求すればいいというものではないんですね。その“ひとひねり”の楽しさを経験して、(舞台の仕事に)引き寄せられて行きました。ストーリー性のあるダンスステージを作ったことがきっかけで、“こういうものを創るなら、言葉のあるミュージカルも出来るのでは”ということで、演出までお声がかかるようになってきたんです」

――多くのミュージカルファンにTETSUHARUさんの名前が刻まれたのが、振付を担当された『ロミオ&ジュリエット』だったかと思います。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘

「『ロミオ&ジュリエット』の振付をさせて頂いた時には、演出の小池修一郎先生がオリジナルな舞台を創りたいという気持ちが強くて、傍ですごく勉強させていただきました。僕の意見をしっかり聴いて下さったので気を遣うこともなく、自分の意見を素直に言ってモノづくりができる有意義な時間でした。演出だけをやっていたら他の演出家が仕事をしている様子を観る機会はそんなにないと思うんですけど、僕は振付をやっていたことで、たくさんの、素晴らしいキャリアのある方々の作品創り、熱意や思いを肌で感じることができ、それが自然と自分の創作に生かされるようになってるんじゃないかなと思います」

――振付家として、演出家としてどんなポリシーをお持ちですか?

「演者が一番気持ちよく、なおかつしっかりそのシーンで存在し、そしてそこで何を一番言いたいかが分かる振付を考えています。僕が作ることで僕の主張は自然に出てくると思うので、変にこだわったり、演者に合わないのに絶対に変えない、というようなことはしません。それよりも、今このシーンで言いたいことが表現できているかということに尽きてしまうんですね。
演出・振付を担当した舞台『タンブリング vol.4』

演出・振付を担当した舞台『タンブリング vol.4』

演出家としても、基本は同じです。ダンスをやっていたことが生きているのかもしれませんが、僕の中には常に“空間をこう使って、ここにこういう角度でこういう関係性になるとこのシーンの言いたいことがよく表現できるな”というアプローチが存在しています。演者の顔を見ていると、こうしたいというものがどんどん出てくる感じなんですよね。それを実際に、稽古場で演者さんに立っていただきながら調整していって、自分が想像もしなかったものが生まれる。“それならこうしてみようか”といったことの積み重ねで、一個の絵が出来上がって行く。何とも楽しい作業です。振付をしているのと似ている部分はありますね」

――では最後に、今後どんな表現者でありたいとお考えですか?

「古いものに囚われることなく、自分の中の枠を大きくしたいし、もしかしたら枠自体、いらないのかもしれませんね。“お芝居って、ダンスってこうでしょ”という定義をもっといい意味で広げたいし壊したいし、結び付けたいし、その中で自分の世界観みたいなものが出来上がったらいいなと思います。自分がやりたいと思ったものを常識などに囚われず、やれる自分になれたらいいなと思います」

――『イン・ザ・ハイツ』、開幕が楽しみです。

「いやあ、(インタビューのおかげで)クオリティのハードルが上がっちゃいましたね(笑)」


ダンサー出身でありながら、演劇学校で一流の新劇演出家たちの講義を受け、また振付家として様々な演出家と仕事をしてきた経験を活かし、演出家としても着実にキャリアを積んで来ているTETSUHARUさん。打楽器を志していたことでラテン音楽への造詣も深い彼は、『イン・ザ・ハイツ』の芯を的確にとらえ、日本版を創りだすディレクターとして、これ以上ない人選であると言えましょう。演出家として異色のルートを辿ってきた彼のこれからとともに、舞台への期待が膨らみます。

*公演情報*『イン・ザ・ハイツ

■公演日/劇場
・4月4日(金)~4月20日(日)/Bunkamuraシアターコクーン 
・4月25日(金)~4月27日(日)/森ノ宮ピロティホール
・4月30日(水)/福岡市民会館 
・5月3日(土)~5月4日(日)/中日劇場 
・5月10日(土)~5月11日(日)/KAAT神奈川芸術劇場ホール

*次ページにて観劇レポートを掲載*

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