魔法使いが住むという『さくらのもりのものがたり』
桜の花はいつも美しく、私たちを魅了します。でも、その花は、時に妖気が漂うことがあります。『桜の森の満開の下』(坂口安吾)など、桜の持つ妖気を描いた文学もたくさんありますね。魔法使いが住むという『さくらのもりのものがたり』も、そんな桜の妖気を感じさせる絵本です。でも、その妖しさに不吉な要素はありません。ちょっと不思議だけれど、温かな5つのお話が展開する、絵本には珍しいオムニバスは、絵本を読み慣れた子に特におすすめします。5人の子どもたちが語る、桜の花のファンタジー
さくらの森は、桜の木が1万本もあるとても不思議な森で、雪の降る真冬に突然花が咲いたり、緑の茂る夏に葉をすっかり落としてしまったりするので、魔法使いが住んでいると噂されていました。『さくらのもりのものがたり』は、そのさくらの森の近くに住む5人の子どもたちの不思議な体験を描いています。第1話「ランナー」では、かけっこが苦手なひろみくんが、ランナーと名乗る少年から、走り方のコーチを受けます。サクランボの実を使ったとてもユニークな練習方法が、ひろみくんに走る楽しさを教えてくれました。第2話「とうめいにんげん」では、花瓶を割ってママから叱られたみちるくんが、消えてしまいたいと思った瞬間に、なんと透明人間になってしまいます。困り果てるみつるくんを救ったのは、やはり、さくらの森からやってきた透明人間でした。
以降のお話も、子どもたちに何か困ったことが起こるたびに、さくらの森の精(?)が姿を変えては、子どもたちに救いの手を差し伸べます。そして迎える最終話「うたごえ」では、実は孤独を抱え、悲嘆に暮れていたさくらの森を、子どもたちが歌で救い、さくらの森の再生に希望の灯をともすのです。
歌でも、文学でも、そのはかなさばかりが謳われる桜の花ですが、このお話のさくらの森からは、むしろ「永遠」が感じられます。また、「共生」という言葉が思い浮かびます。さくらの森という異世界に、子どもたちを誘う上質のファンタジーは、妖しい雰囲気とは裏腹に、未来への期待を抱かせる、この季節にピッタリのお話です。
【書籍DATA】
マオアキラ:作 ささめやゆき:絵
価格:1365円
出版社:小学館
推奨年齢:6歳くらいから
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