もう、民話がつまらないとは言わせません!! 『犬になった王子』
最近、若いお父さんお母さんが、昔話や民話の絵本を敬遠しがちな傾向があり、とても残念に思っておりました。そんな折に出会ったのが、『犬になった王子』です。ハリウッド映画にも負けないダイナミックなストーリーと、気品にあふれた美しい日本画。主人公のたたずまいや瞳からは、強い意志とみなぎる力が感じられます。このような絵本が出版されたからには、もう誰にも「民話はつまらない」などとは言わせません!人々の幸せを願い困難に立ち向かう王子の運命は?
世界中のどの国にも、昔から伝わる民話があります。それは、人々の生活の中から生まれ、語り継がれてきたお話で、時にはその内容が少しずつ変化しながらも、人々の心の中に生き続けてきました。今回ご紹介する『犬になった王子』は、そんな民話の1つで、チベットに伝わるお話です。大昔、チベットのプラ国には食べ物が少なく、人々は大変困っていました。プラ国のアチョ王子は、山の神のもとに美味しい食べ物ができる穀物の種があるとの言い伝えを聞き、神様のところへ出かけていきます。ところが、穀物の種を持っているのは、神様ではなく、怖ろしい蛇王であることがわかりました。
神様の教えに従って、求める種を手に入れながらも、蛇王の魔力によってその姿を犬に変えられてしまった王子は、いくつもの山を越え、やがて美しく心優しい娘ゴマンの住むロウル地方へとやってきました。ゴマンと出会った王子は、彼女の愛に一縷の望みを託し、ゴマンと共にその穀物の種を植えながら、遠い故郷プラ国を目指します。アチョ王子は無事人間の姿に戻れるのでしょうか? そして、美しいゴマンとの恋はどのような結末をむかえるのでしょうか?
『犬になった王子』は、手に汗握る冒険物語であり、同時に若い2人の恋物語でもあります。少し長いお話ではありますが、読む人を一気に民話の世界に引き込み、幼い子どもたちをも飽きさせません。
また後藤仁さんの絵は、墨や岩絵具(いわえのぐ)を用い、日本画の技法で描かれており、このスケールの大きな民話の世界を余すところなく表現しています。色調の美しさは言うまでもありませんが、主人公の髪の毛の1本1本までを丁寧に描きあげる繊細さは、日本画ならではのものと感嘆せずにはいられません。
多くのお父さんお母さんに、ぜひこの絵本を手にしていただき、民話の面白さを実感していただきたいと心から願っています。
【書籍DATA】
君島久子:文 後藤仁:絵
価格:1800円
出版社:岩波書店
推奨年齢:5歳くらいから
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