社会問題にもなっている腰痛

今後腰痛を有する人口は増加すると考えられている

今後腰痛を有する人口は増加すると考えられている

腰痛の生涯発生率は50~80%であり、多くの人が経験する症状であることがその数字からもわかりますが、これには「腰痛」という症状があらゆる疾患が原因で発生するという背景があります。単に腰痛と言っても、その原因は大きく内蔵・血管・神経・心因・脊椎の5つに大別されると考えられています。さらには社会的因子等がこれらに加わり、腰痛の原因を多様なものにしているのです。

また国内では高齢化社会の到来がさらなる腰痛患者の増加に拍車をかけていると言われ、特に高齢女性の場合腰痛を引き起こす頻度が高いことが明らかになっています。米国などでも整形外科医、脳神経外科医、産業医などを受診する最大の理由は腰痛であることがわかっています。腰痛による医療費と症状が悪化した場合に発生する休業補償や就労不能時間などを考慮すると莫大な損失が腰痛のために発生していることになり、社会問題にもなっています。

腰痛の原因と段階

一般的に私たちが腰痛として捉えているものは腫瘍や感染、骨折などの重篤な原因から除外され、主に脊柱が痛みの由来であると考えられています。このタイプの腰痛は脊柱を構成する椎骨や椎骨同士が構成する関節とそれらをつなぐ靭帯、腰部にある筋肉・筋膜になんらかの損傷が起きて腰痛を引き起こします。

ですが上記のどの部位に原因があるのか特定するのは困難なことが多く、こうした原因が特定できない腰痛を「非特異的腰痛」と呼びます。米国のDeyoらの研究では、腰痛を訴える患者の85%がこの非特異的腰痛であることを明らかにしています。つまり、腰痛のほとんどが原因を特定できないままになっているということなのです。

また、腰痛にはいくつかの段階があり、「発症から3ヶ月以内の腰痛と腰椎に由来する下肢痛」を急性腰痛とし、3ヶ月経過したものに関しては慢性腰痛であるとされます。

腰痛に効果的な運動療法

腰痛に有効な運動療法としては、米国医療政策局が1995年に発表した「成人急性腰痛に関するガイドライン」によれば「全身調整機能低下に対する自転車エルゴメータなどの適度な運動」のみであり、それ以降腰痛に対し有効な運動療法のエビデンスは発表されていないという現状があります。

しかしながら2001年に豪州のHidesらは腰痛の再発率に関する長期的な検討を行い、脊柱を支える役割を果たす多裂筋をはじめとするコアトレーニングを実施したところ、従来の治療法と比較し有意に再発率が低下したことを発表しています。

また、2004年に豪州のClareはマッケンジー療法という運動療法に関して発表しています。マッケンジー療法はうつ伏せに寝て腰を反らすという動きを主体とした運動療法であり、腰椎の自然な前湾を回復させることを主な目的としています。

この治療法が他の治療法と比較し発症後3ヶ月における痛みや運動能力低下・日常生活動作の改善、発症後3~12ヶ月以内では欠勤日数の低下などに有効であったことをClareは明らかにしています。

これらのような研究結果が出されてはいますが、そのエビデンスレベルの問題などから、未だに腰痛に対する運動療法は確立されていないと言えるのです。 

腰痛と体幹筋の関係

国内では以前から腰痛には腹筋運動、という考えが根強くあるように感じますが、これはおそらく1937年にWilliamsが発表した腰痛体操が広く紹介されたことによるものと考えられます。近年では、体幹トレーニングの流行などからもわかるように、より深層にある筋を鍛えることが注目を集めていますが、これは1990年代にはすでに腰痛リハビリテーションの手法として考えられていたものなのです。
1998年に埼玉県立大学の伊藤俊一らが発表した研究においても、腰痛を有する患者は健常者と比較して体幹の筋力が低下していることが明らかになっており、腰痛の患者は体幹筋の機能が低下することにより脊柱の自然な湾曲を保持することが困難となり、脊柱を支える組織になんらかの破綻が起きていることを示唆するものと考えられます。

これらのことをまとめると、
  • 腰痛の多くが非特異的腰痛であり、原因が特定できないことが多い
  • 非特異的腰痛は体幹筋の筋力低下により脊柱の湾曲が保てなくなって発生している可能性が高い
ということが言えるのではないでしょうか。

こうした腰痛の基礎知識を踏まえ、次に東洋医学的な視点で考える腰痛について考えていきましょう。