糖尿病/糖尿病の合併症(痛み・冷え・足の異常等)

糖尿病の末梢動脈疾患の診断項目・治療法

糖尿病の足病変には、客観的な血流検査が欠かせません。専門の医療機関には最新の機器が揃っていますが、一人の患者としてはなかなかたどり着けないものです。正しい知識と適切な治療を受けるには患者の努力が求められます。

執筆者:河合 勝幸

糖尿病患者の末梢動脈疾患の診断方法

積極的な下肢救済手術は大切断よりも高コストではありません。大切断を受けた人は片方の足に負荷がかかるので30~50%は数年内にもう一つの足を失います。

積極的な下肢救済手術は大切断よりも高コストではありません。大切断を受けた人は片方の足に負荷がかかるので30~50%は数年内にもう一つの足を失います。

■ 基本的検査
下肢(もも・すねを含む足)の血液循環の評価と判断は医師の経験が重要です。

まず、足の話を聴くことから始まります。「足のしびれや歩いた時の痛みと消失、傷む部位、歩ける距離」など。そして足を触ってよく観察します。足の温度(冷感)、足指や足の体毛の欠損、足の色の変化(蒼白)、爪の状態、水虫などの感染症、足の変形とタコ、ウオノメ、まめ、靴擦れなどの傷や潰瘍などの検査です。近年、やっと糖尿病足病変の管理が診療報酬の適用になりましたから、遠慮なく医師や看護師に相談しましょう。

そして大切な動脈拍動触診(足背動脈など)が行われます。米国の大規模な調査では、糖尿病患者100人あたり10人位は拍動が不十分、20~30人は拍動が検知できませんでした。糖尿病患者は自覚がないままに足病リスクが高くなっています。この検査では拍動を増幅して検知する装置もよく使われます。

血管疾患のスクリーニングは一般的にABI検査がよく行われています。これは足関節と上腕の血圧を比べる方法で、仰向けになった状態で四肢の血圧を測定すると、足先まで血液を届けるために通常は足の血圧が1.1~1.2倍高い値を示します。ところが動脈に狭窄や閉塞があると逆に上腕より血圧が低下します。この血圧の比をとれば狭窄や閉塞の程度を表すことができます。

ABI=足関節における収縮期血圧/上腕における収縮期血圧

ACC/AHA(米国心臓学会)によると、
   1.30以上  足首の血圧が高め
1.00~1.29   正常範囲
0.91~0.99   正常範囲だが境界領域
0.41~0.90   軽~中程度の閉塞/狭窄の可能性
   0.40以下  重度の閉塞(複数箇所)の可能性

必要に応じてTBI(足趾・上腕血圧比)、APP(皮膚灌流圧)検査も行われます。
病変部位の特定には、分節血圧測定、脈波評価(PVR)、超音波検査(Duplex Scan)など。

重症度評価にはトレッドミル検査(間欠性跛行)、NIRS(近赤外分光法)、SPP(皮膚灌流圧)、TcPO2(経皮的酸素分圧)など。
病変部所見診断には血管の画像分析として血管エコー、MRA(磁気共鳴血管造影法)やCTA(コンピューター断層血管撮影法)などが行われます。

このように足の診断、検査方法は格段の進歩を遂げていますが、問題はまだ一般の医療サイドの関心が薄く、足に不安がある糖尿病患者がどこで・どのような検査を受けるべきかを担当医が適切な指示ができないことにあると思います。診断のためには血流の評価は絶対に必要なのです。

末梢動脈疾患、閉塞性動脈硬化症の治療法

早期発見には、自分で毎日足をチェックしながらよく歩くしかありません。そして適切な診断を受け、適切な治療を行うことです。

間欠性跛行があるのなら、運動療法(歩行訓練)で歩ける距離を延ばすことができます。薬物治療では足の血管を広げる薬や、血液をさらさらにする薬、固まり難くする薬が処方されます。
必要に応じてステントによる血管内治療や外科手術によるバイパス手術による血行再建が行われます。血管内にステントを入れて血管を拡げる手術は、骨盤内の腸骨動脈領域ではとても予後がよく(2年開存率は約90%)、大腿動脈領域での2年開存率は約70%とされています。

数年前までは大腿動脈でのステント手術が保険の適用を受けられなかったので、病院あるいは個人負担で行われましたが、やっと保険適用になりました。ただし、膝下動脈のステント手術は現在のところ(2014年2月)保険適用外です。

血管外科医はどのように判断するか

いかなる手術もリスクを併いますから、患者の他疾患(心臓や脳、腎臓など)や生活に必要な身体機能などをトータルで判断します。

認知症や精神障害、歩くことができない患者ではバイパス手術の対象にならないかも知れません。壊疽による組織損失の著しい人や血行再建しても大切断がやむを得ないだろう人は注意深く評価されます。年齢のみで判断することはなく、費用も問題外です。下肢救済はお金では代えられないからです。手術のリスクと他の健康状態のバランスをみながらですが、歩行できるように足を救うことは、結果として心臓や脳、つまり命を救うことにもなるのです。

バイパス手術を受ける前にすること

冠動脈疾患や脳梗塞の副作用や死亡は、大きな血管手術の一番のリスクです。心臓を前もって精査して、必要なら治療を受けます。炎症があれば十分にコントロールしておくこと。手際よく血行再建をして適切な薬物治療を行い、更なる虚血を防止します。

末梢動脈疾患治療にはどんな手術が選ばれるか?

運動療法と薬物療法で間欠性跛行が改善されない時は、カテーテル治療とバイパス手術が検討されます。骨盤の内に位置する腸骨動脈の狭窄や閉塞では、その位置やその数、長さ、プラークの性質(カルシウムで固いか?)、体のリスク、健康状態などによってカテーテルかバイパスかを選びます。

大腿動脈ではカテーテル治療(バルーンやステント)やバイパス手術が選ばれます。バイパス手術では自分の静脈血管(大伏在静脈がよく使われる)や人工血管が用いられます。

糖尿病患者の足手術合併症の率は大切断もバイパスも同じようなものとされています。だからバイパス手術を恐れるな! と言われています。特に糖尿病者に特徴的な膝下動脈のアテローム性の狭窄や閉塞にはカテーテル治療はあまり選ばれないようです。血管壁にカルシウム沈着があって固く、成功率が低く、手術合併症が高レートだからです。

まとめ
足潰瘍や足手術の予後には血行再建がなによりも大事です。欧米には足病の専門医がいて、診断、手術、予後のリハビリの中心的役割を果してくれます。残念ながら日本には足病医は制度上ありませんから、治療のキーマンが不在なのです。

それでも、うれしいことに「連携によって下肢救済を積極的に行っている施設」が日本下肢救済・足病学会のホームページで公開されています。どの医療機関に自分の足のトラブルを相談していいか困っている人は参考にしてください。
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