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福島県初のZEHスマートタウンから考える復興の現状(2ページ目)

先日、福島県で初めて全棟ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が建設されるという分譲地を見学してきました。今回はそのレポート。復興に努力する福島県の現状はもちろん、そこから考えたい住宅取得のあり方についても紹介します。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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街びらきの式典には県や市の幹部の方々も出席されていたのですが、彼らが語る言葉に今の福島県が直面している強い危機意識が感じられました。「(この街が)原発に頼らない再生可能エネルギーの利用を推進する社会づくりの象徴となって欲しい」(県幹部)などとお話しをされていたのです。

未だに切実な問題として残る原発事故の影響

福島県以外に住む人たちにとっては原発事故の記憶や放射能に対する危機感は薄れつつあるようですが、現地では現在進行中の切実な問題。食品の安全や汚染された土壌の除染なども含め、原発事故に伴う風評被害は福島県に根深い影を落とし、神経質にならざるを得ない状況が続いているのです。

蓄電池

「グリーンファースト・ハイブリッドゼロ」に搭載されている蓄電池。太陽光発電システム・燃料電池と併用することで、災害時にもエネルギーを確保し、お湯が使えるなど、通常時の生活を一定レベル維持できるようになっている(クリックすると拡大します)

積水ハウスの分譲地販売責任者に話を伺ったところ、購入を検討される方の中には「造成のための土をどこから持ってきたのか」と確認されたり、自ら放射能測定器を持ってきて土地の放射線量を確認をされていた方も多かったそう。そのお話から福島県の皆さんが置かれている状況を推し量ることができると思います。

福島県では依然として、人口流出に歯止めがかからない状況だといいます。その責任者が、今回の街づくりにあたって「人が集まってくる、人を呼びたくなる、人が戻ってくる街にしたい、そんな使命感を持って開発にあたりました」とおっしゃっておられたのが非常に印象的でした。

今回のような防災にまで配慮した質が高く安心・安全に配慮した街づくりが広く行われ、それが福島県の安全性や信頼につながればいいなと改めて考えさせられました。そしてもう一つ、興味深いお話を伺うことができました。それは住宅購入の動機が他の地域とはずいぶんと異なってきたということです。

具体的には、「福島県で住宅取得を検討されている方々は、取得コストよりも安心・安全など住まいの質を明らかに重視されるようになってきている。だから消費税率の上昇についてはあまり気にされていなかった」ということです。実はこのことが今回の記事の本題。これから住宅取得を目指す皆さんにはしっかりと心にとめていただきたいと思います。

福島県だけでなく、東日本大災害で直接的な被害を経験された方々は「住まいは安心・安全が第一」ということを強く認識されているのだろうと思われます。これは実体験があるからこそ、そう認識されたのだと思います。

分譲住宅地に建てられた二世帯住宅が意味するものとは?

ただ、しっかりとした地震対策を施し、太陽光発電システムなどの省エネアイテム、それに加えて蓄電池などを取り付けた住宅、災害に配慮した街に住むことは、イニシャルコスト(住宅の取得時のコスト)の面を考えると、私たち消費者には大変な経済的負担となり、二の足を踏みたくなります。

二世帯住宅

「スマートコモンステージ森合」にある二世帯住宅。玄関ドアが2ヵ所にあることに注目されたい。分譲住宅地に二世帯住宅が建てられることは非常にまれで、それが福島県の置かれている特殊性を表しているようだった(クリックすると拡大します)

しかし、それらがあることで万が一の際にも安心できることを、被災された皆さんは経験的に理解していると思うのです。かといって、私は「フルスペックで対応しましょう」、「だからハウスメーカーの住まいを取得しましょう」と言いたいのではありません。強調したいのは「皆さんのできる範囲で、災害に強い質の高い住まいの取得を目指しましょう」ということなのです。

ところで、「スマートコモンステージ森合」で見学させて頂いた建物の1棟は二世帯住宅でした。分譲の方式が「条件付き」、つまり建売ではなく売建であるため注文住宅を建てるスタイルなのですが、一般的に分譲住宅地で二世帯住宅が建設されるのは大変珍しいことなのです。

というのは、二世帯住宅は建て替えで建てられるのが普通だからです。私は色々な分譲住宅地を取材で見てきましたが、分譲住宅地に二世帯住宅があるのを初めて目にしました。ここにも福島県の皆さんの想いがみえるような気がしました。

それは、安心できる場所で家族みんなで暮らしたいという強い願望。あるいは、故郷から遠く離れ、改めて家族みんなで新たな暮らしの基盤を作るという、そうした決意がその二世帯住宅から感じられたのです。

家族や地域の人たちとのつながり、「絆」の大切さは震災直後に大きくクローズアップされました。しかし現在はどうでしょうか。そうしたことも改めて考えた取材でした。

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