ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.6 今拓哉、新時代の「礎」を志す(3ページ目)

骨太でありながら柔らかな声と確かな存在感で、大作ミュージカルからストレートプレイ、大河ドラマまで幅広く活躍する今拓哉さん。この春はエネルギッシュな作風で知られるTSミュージカルファンデーションの『ちぬの誓い』に出演します。何よりも“人”を大切にする彼に、俳優としての原点から現在の志まで、率直に語っていただきました。*観劇レポートを追記更新しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『ちぬの誓い』観劇レポート
現代の「名もなき人々」を鼓舞する
平安の若者たちの、儚くも熱き青春

『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美

『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美

今拓哉さん取材の準備で、本作の台本(作・木内宏昌さん)を読ませていただいた際の第一印象が「ミュージカル台本というより、小説のよう」。もちろん、人物名の下に台詞があり、その横にト書きがあり、と台本の形式をとってはいますが、平安時代の港の普請をめぐる物語とあって耳慣れない専門用語もある上、登場人物たちの心情が丹念に台詞や歌詞という形で言語化され、噛みごたえある時代小説を読んだような感覚を覚えたのです。

しかし実際の舞台は、骨太のテーマはそのままに、躍動感溢れるミュージカルへと立体化。まずは「和」テイストの音楽、衣裳と不思議にマッチした謝珠栄さん振付のダンスを繰り広げつつ、オール男子の出演者たちがかわるがわる、「日本最初の国土、絵島」の成り立ちを歌い上げます。日本書紀にさかのぼるこのエピソードが舞台にダイナミズムを与えると、舞台上手に本作の主人公、不動丸と仲間たちの姿が。彼らが20年前、大輪田泊(現在の神戸港)の普請に尽力した日々を、台詞と歌、そしてその中間とも言える『レ・ミゼラブル』的なメロディ付き台詞の3種の言語表現を使い分けつつ、舞台は描いて行きます。

「ちぬの海」と呼ばれた現在の大阪湾は波が荒く、作業の過程では何人もの仲間が命を落とします。「自然」という圧倒的な敵との戦いと並行して、彼らは平清盛に仕える陰陽師からの非情な命を負い、「権力」にも押さえつけられていますが、それでも若者たちは敢然と海に立ち向かう。参加のきっかけこそそれぞれですが、艱難辛苦を経て、彼らの原動力は「“港”の夢にわれをなげうつ」と同時に「“皆と”の夢にわれをなげうつ」という、強固な「絆」へと束ねられてゆきます。大勢が一列に並び、揃って歌いながら船を漕ぐシーンなどは、この「絆」の象徴として圧巻の一言です。
『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美

『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美

若者たちを束ねるのは、「港を築けば新しい武士の世が生まれる」と理想に燃えた武士見習いの不動丸。演じる東山義久さんが声質、舞台の“居方”ともリーダー役にぴたりとはまっています。他の若者たちも個性豊かで、それぞれに見せ場がありますが、特に見逃せないのが、藤岡正明さん演じる五郎丸の最期。決してヒーロー然としているわけではなく、どちらかといえば泥臭く、その最期も犬死に近いのですが、いまわのきわの台詞は「俺のできることは全部した」。満足げなその姿は、人生の締めくくりの一つの理想形として映り、名もなき民の誰もがヒーローになりうることを示しているかのようです。獅子丸役、上原理生さんの力強い歌唱、映画で野村萬斎さんが演じていた重厚な陰陽師像とは少々異なり、エキセントリックな味を漂わせた今拓哉さんの陰陽師も印象的です。5人編成バンドによる生演奏も、臨場感溢れる舞台に貢献していました。

人間の一人一人は非力だが、利己主義を脱し思いを一つにするとき、思いがけない力が生まれ、「不可能」は「可能」となる……。謝珠栄さんがキャストたちから最大限の情熱と力を引き出したことで、『ちぬの誓い』はこのテーマを力強く、現代の観客に伝達。同時に、人々の心に眠る「夢見る力」を鼓舞する舞台となっています。


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