親離れの第一歩と初めての試練を描いた『こすずめのぼうけん』
巣の中でお母さんと暮らしていた赤ちゃんすずめは、成長とともに体は茶色の毛でフサフサになり、翼をぱたぱたと動かすことができるようになりました。さあ、いよいよ、巣立ちの時期が近づいています。お母さんすずめに飛び方のコツを教えてもらって初めて巣から飛び立ったこすずめは、早速、外の世界の厳しさに直面します……。初めて家族以外の集団生活に飛び込んでいく小さな子どもたちも、似たような思いを経験することがあるかもしれません。ハラハラドキドキする『こすずめのぼうけん』を、独立心が芽生えてきたり、入園や入学といった新しい世界への一歩を控えているお子さんと、見守ってみてもいいですね。
自分の力を試したい!
こすずめに飛び方を教える日が来た時、お母さんは言いました。「すのふちにたちなさい」。お母さんも、さぞかしドキドキしながらこの言葉を言ったのではないでしょうか。人間の赤ちゃんは、1歳前後で歩き出すようになります。他の動物に比べ、自分の足で歩けるようになるまでの期間が長いのです。歩けるようになるまでは、抱っこやおんぶ。そして、歩けるようになっても、その小さな子から親は目を離せません。保育園や幼稚園に入るまでは、1日中、ずっと一緒にいます。そのお子さんが保育園や幼稚園に入るとき、新しい世界でやっていけるのかどうか、不安を感じます。でも、自分の不安は隠して「さあ、行きなさい」と背中をそっと押さなければなりません。「ちょっとずつ、マイペースで新しい生活に慣れていってね」。そんな気持ちを持つお母さん、そしてお父さんも多いでしょう。
動物の世界はもっと厳しいですね。お母さんすずめは、こすずめに言ったのです。「いしがきのうえまで いったら、きょうのおけいこは それで おしまい」。それにもかかわらず、自分が飛べることを知ったこすずめは、石垣を越えて飛んで行ってしまいました。畑も、その先の生け垣も、川も越えられるという、突如わき上がってきた自信が、こすずめをどんどん遠くに飛ばしていきます。
初めてぶち当たる試練
遠くまで飛んで行ったはいいけれど、やっぱり外の世界は甘くなかった……。人間だって走り続けることはできません。鳥だって飛び続けることはできず、どこかで休憩しなければなりません。しかし、こすずめが「とりのすだ、仲間かな?」と思って尋ねた場は、皆、すずめ以外の巣。悲しいかな、仲間として受け入れてもらえないことが続きます。まだまだか弱いこすずめはどうなってしまうのだろうと、読む側の緊張も高まっていきます。成長の土台は……
結局こすずめは、安心して受け入れてもらえる存在に出会えました。出会えたというよりは、戻れたという方がふさわしいでしょう。初めて外の世界に出て行った子どもたちにとって、動物であれ、人間であれ、安心して受け入れてもらえる存在を見つけるのは、容易なことではありません。でもきっと、楽しいことも苦しいことも色々な経験をする中で、家族ではなく、育った環境や背景が異なっていても、お互いに受け入れらる存在を見つけられるはず。そんな存在を見つけるまでの時間にも、大きな個人差があるでしょう。落ち込むたびに、揺るぎない安心できる場所に泣きながら戻ってくる子どもたちもいるでしょう。
こすずめは、絵本の中では、まだ「自分の羽で飛ぶことができた」だけ。小学校に上がるくらいのお子さんと読めば、これからのこすずめのさらなる冒険に、話が弾むのではないでしょうか。もっと小さなお子さんでも、こすずめの小さくて大きな冒険に、「ワクワク」と「ドキドキ」という感情を重ねることができるのではないかと思います。