絵本/絵本関連情報

おかあさんを見つめる小さな目『ねえだっこして』

赤ちゃんの誕生で、大好きなおかあさんとあまりふれ合えなくなってしまった猫の「わたし」。「ねえだっこして」と寂しさを感じる「わたし」の心は、赤ちゃんとの毎日の中で少しずつ変化していきます。

執筆者:千葉 美奈子

赤ちゃんにお気に入りの場所を取られて……『ねえだっこして』

赤ちゃんをひざの上で抱きかかえ、ほおを赤ちゃんの顔にぴったりとつけているおかあさん。おかあさんも赤ちゃんも、とても気持ちよさそうに目を閉じています。その傍らにちょこんと座り、2人の姿に眼差しを向けている猫の表情は、どこか寂しげ。絵本『ねえだっこして』の表紙は、温かく切ない雰囲気でいっぱいです。

 


おかあさんは赤ちゃんにつきっきりだから、つまらない

「わたし このごろ つまらない……」。猫が自分の気持ちを語る形でお話が進んでいきます。つまらない理由は、赤ちゃんの存在。特等席だったおかあさんのひざの上には、常に赤ちゃんがいます。甘えたくて「ニャア」とすり寄っていっても、お母さんの口ぐせは「ちょっと まってね」「あとでね」。

赤ちゃんがうらやましくて仕方ない「わたし」が、ちょっぴりいじけて身体を丸めて目をつぶっていると、おかあさんの穏やかな話し声や子守唄が、耳を優しくくすぐります。


赤ちゃんとの交流で生まれる新しい気持ち

でも、「わたし」は気づいたのです。赤ちゃんに魅かれ始めている自分に。寝て起きて泣いて、おっぱい飲んで、また寝て起きて泣いて……。何ともつまらない存在におかあさんを奪われちゃったなあと感じている「わたし」の心は、赤ちゃんの甘いにおいに気付き、赤ちゃんにちょっかいを出されたりしてふれあう中で、少しずつ変化していきます。

我が家にも、16歳の猫がいます。私が結婚前から一緒に暮らし、一番長く生活を共にしている家族。人間の年齢に換算すると90歳前後というおじいちゃん。初めての子が誕生して病院から家に赤ちゃんとともに戻った13年弱前の春の日、見慣れない存在に驚いた猫は、突然、声を発することもなく1メートルぐらい横っ飛びしました。そんな我が家の猫と赤ちゃんの初めての出会いでしたが、その後、下の子たちが家族に加わった際には、もう慣れたもの。落ち着いて新しい家族を迎え、成長と共に自分の存在に関心を示してからんでくる赤ちゃんたちを、兄貴のような眼差しで見守り続けてきました。それでも、たまに甘えた声を出して、私の足元に頭をすりつけ、ひざにのってきます。


ちょっぴりさびしく感じている存在に気づけたら

この絵本を読んで、お兄ちゃん、お姉ちゃんになった上の子の気持ちを思って胸がキューッとする方もいるでしょう。この絵本と全く同じように、子どもという存在が家族に加わってから、あまりふれ合いの時間を持てなくなったペットの気持ちを想像する方もいるでしょう。

もしかしたらだんなさんも、赤ちゃん中心で回る生活の中で、もう少しだけでも、夫婦でゆったり会話できたらいいなあ、なんて思っているかもしれませんよ!?

そして、忘れてほしくないのは、おかあさん自身の気持ち。何人目の赤ちゃんでも、家族が増えるということは劇的な変化。子どもが増えて赤ちゃんのお世話につきっきりの中、家族みんなに愛情を注げているだろうかと気がかりでいっぱいになるおかあさんもいるでしょう。一番置き去りにされがちなのは、おかあさん自身の気持ちかもしれません。みんなに愛情を注ぐ一方の毎日では、おかあさんも、身も心もいっぱいいっぱいになってしまいますね。

「わたし」は、おかあさんを、そして家族を癒す大切な存在。自分の心をもそっと抱きかかえて慈しむかのような、最後のページのおかあさんの穏やかな表情、家族のひとコマが、心を静かに揺さぶります。
 
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