子育て事情/子育て事情関連情報

「産後クライシス回避のために育児しよう」の落とし穴(2ページ目)

産後クライシスのメカニズムと意味を説く「間違いだらけの産後クライシス論争」第5弾。妻が夫に対して肯定的感情を抱きにくくなるのは産後すぐである。まだ父親としての実感も湧いていないタイミングで、取引の文脈で育児や家事を迫られれば、子どものために、妻のためにという純粋な動機はたちまち摘み取られてしまう。育児や家事に対して「やらされるもの」というネガティブなイメージを刷り込まれることになるだろう。

執筆者:おおた としまさ

父親になる喜びが強い男性ほど実際に育児している

前述小野寺教授は1998年に「父親になる意識の形成過程」という論文も発表している。そこでも興味深い結果が得られている。
  • 親になる以前の「父親になる実感」、「父親としての自信」、「父親になる喜び」のうち、「父親になる喜び」が強い男性ほど、実際に親となってから育児に積極的に参加しているという傾向が認められた。
  • 経済的・精神的に一家を支えていく負担感、妻の妊娠によって自分の行動が制限されているという意識などの制約感が強い男性は、親になる実感に乏しく、親になる喜びも低い傾向にあった。
ということは、産後クライシスという取引の道具を持ち出されて、制約感を高めることは、産後の父親の育児参加においては必ずしもプラスに働かない可能性も考えられる。さらに、小野寺教授は次のような説明を付け加えている。
  • こうした制約感をもちやすい男性は、人格的特徴として親和性と自立性がともに低く、また、自分についてしばしば深く悩んだり自分に起こる変化に敏感に反応する私的自意識が強い傾向が見られた。このことより、親になることに制約感を感じ、親になってからもうまく子どもとかかわりがとりにくい傾向の男性は、私的な自意識が強いので、新しい父親という状況に慣れうまく順応して行くには時間がかかることが予想される。
ここに描かれている男性像は、「パパの悩み相談横丁」に相談を寄せる父親たちの多くに一致する。

もし、今ことさら産後クライシスが脅威となっているのであれば、それは夫の無神経とか、妊娠・出産に対する世間の無理解とかいうミクロなことが理由ではなく、夫婦関係以前の基本的な人間関係の構築方法において、十分な免疫がつくられていないまま夫婦になる人が増えており、ただの風邪である産後クライシスに耐えられない夫婦が増えているというマクロな問題を指摘するほうが理にかなっているように思う。
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