読んで楽しい、絵探しで楽しい『いたずらゴブリンのしろ』
心配性の王様が仕切るお城は、不思議な存在「ゴブリン」たちのいたずらで、いつも大騒ぎです。しかし、ゴブリンたちは、やがて、お城と国の平和にとって欠かせない存在であることが明らかになるという、ユニークな物語。建築の専門家でもある筆者の描く、緻密なつくりのお城のあちこちに隠れて、人間にちょっかいを出すゴブリンたち。親子で、兄弟で、友達同士で、ゴブリン探しで遊びながら盛り上がれる楽しい絵本です。
あっという間に出来上がったお城は不可解なことの連続
戦いの好きな隣の国からの攻撃に備え、見晴らしの良い丘にお城を建て始めた王様。なかなか進まない工事に王様がイライラしていると、ある朝突然、立派なお城が完成しているではありませんか。気味悪く思いながらも住み始めた王様とそこで生活する人たちの間に、毎日不可解なことばかりが起こります。とっておきのワインや、焼いたはずの肉やパンがなくなったり、いきなり足をすくわれて転んだり、部屋を荒らされたり……。毎日たくさんの人たちが王様のもとに不満を訴えに押しかけてきて、国の平穏どころではありません。謎の存在「ゴブリン」
ゴブリンとは、ヨーロッパの昔話などに登場するいたずら好きの妖精。この絵本に出てくるゴブリンたちは、見るからに悪賢そうないたずらっこの顔つきをした、小人といった風貌です。一晩で完成したお城はゴブリンたちによるもの。お城中にすみついたゴブリンたちを追い払おうと王様たちが躍起になっていたところ、そんなお城の不安定な様子をかぎつけたのか、隣の国が大群で攻め込んできました!そこからのゴブリンたちの戦いぶりは、見事としかいいようがありません。自分たちが作って知り尽くしているお城には、実はたくさんの仕掛けや抜け穴がありました。緻密に描かれたお城の断面図の中で戦いが繰り広げられるページは圧巻です。
絵の中のゴブリン探しにハマる!
作者の青山邦彦さんの絵は、とにかく細部まで丁寧に描き込まれています。建物の作りだけではありません。登場するすべての人たちの表情、動き、ページのあちこちに隠れているゴブリンたち、戦いの激しさが伝わる、兵隊たちやゴブリンたちの動き。どのページにも、読み手を楽しませようという作者の思いがぎっしり詰め込まれています。何といっても楽しいのは、ゴブリン探しでしょう。あちこちに隠れているゴブリンたちは、そう簡単には見つけられません。「ここにいた!」「あ! こんなところにも!」「これもゴブリンじゃない!?」。大勢が集まる読み聞かせの場よりも、家族や友達同士で身を寄せ合って楽しむ時間を、最高に盛り上げてくれます。繰り返し読むたびに、新しい発見があることでしょう。
さて、絵本の中でずっと眉間にしわを寄せていた王様……。戦いに勝利した後には、再びお城の断面図が登場し、ゴブリンたちが楽しめるお城にするよう、指図する王様の小さな姿を見つけることができます。表情は分かりませんが、きっと眉間のしわもなくなって笑顔になっているに違いない! 最強の守り神たちと暮らしているのですから。