スタンプを使うと会話が楽しい
欲しくなるところから購入までのステップが非常に短いのが、またうまいところです。
これが価値の本質で、スタンプを購入することによって会話が盛り上がったり、友達との仲がより深まったりして、LINEを使ったコミュニケーションに満足すれば200円という金額は高くない、ということになります。
また、売り方が非常に巧妙で、まず無料のスタンプがあることでLINEを使っている多くの人が当たり前のようにスタンプを使う土壌を築いています。その上で、誰かがスタンプを使うと、そのスタンプをタップするだけで購入画面に進むことができます。商品を欲しいと思ったタイミングと、買えるタイミングが一致しているというのは、非常に強いんですね。
スタンプを使われれば使われる程、欲しいと思わせるタイミングが演出され、欲しいと思った時にすぐ買えてしまうから買う人が増える、買ったらすぐ使いたくなりますから、またそれを見た人が欲しくなる。本当によく出来ています。
こうなると、画像40枚が200円がマンガの単行本と比べてどうか、というのは全く無意味な比較になります。だって、マンガを何冊買ったところで会話を盛り上げる道具にはならないのですから。「スタンプで会話を楽しみたい」とユーザーが感じているのが肝なのです。
また、ちょっと話がずれますが、「LINEは基本無料だけど結局スタンプでお金を巻き上げられる」というような印象があまり持たれていないのも実はとても大事なことです。ユーザーの自由意志で購入して、満足度が高いと、買わされているという感覚は生まれにくくなります。メーカーなどの公式アカウントに登録することで、無料でもらえるスタンプがたくさんある、というのも上手いところです。
オンラインビジネスに苦悩するゲーム業界
ダウンロードコンテンツが、ゲームの価値を高めるどころか、ユーザーの不安材料になることも
そこでオンラインビジネスに積極的に取り組んでいますが、問題は山積みです。まず、単純にダウンロードでゲームを購入してもらうことの難しさ。例えば、任天堂がニンテンドー3DSで発売したNewスーパーマリオブラザーズ2のダウンロードコンテンツに新コース3つで200円というものがあります。LINEスタンプと同じ価格ですね。
手間もかかってます、完成度もあります、200円はお手頃と言える価格でしょう。でも、これを購入してもらうのは中々に大変なことです。パッケージのゲームをたくさんの人に買ってもらって、気に入ってもらって、もっと遊びたいと考えてもらって、そういう人に新コースがダウンロードで購入できてすごく面白いんだよと伝えて、それでも買ってくれるかは微妙なところかもしれません。相応の手間をかけた商品であるにも関わらずです。
一方で、新コースやマップ、衣装といったもではなく、ゲームの仕組みに介入して有利に進めるようなアイテムを売るといった方法も取られています。しかしこれは大変にデリケートで、リスクもあります。コナミが2013年秋に発売した「実況パワフルプロ野球2013(以下パワプロ2013)」のPS3版、PSVita版では、ゲームの進行を巻き戻してやり直すことのできる「思い出の砂時計」が1つ100円で販売され、ユーザーの議論を呼びました。
ダウンロードでゲームのバランスを変えるようなアイテムが販売されると、それだけでゲームの面白さが失われることを心配するユーザーも少なくありません。せっかく長年掴んできたファンが離れてしまうようなことがあれば、ゲームタイトルの価値自体が下がることも考えられます。
コンシューマーゲーム業界はダウンロードビジネスに積極的に取り組み、試行錯誤を繰り返していますが、ユーザーが納得してお金を払い、満足度を高め、より多くのユーザーを巻き込んで業界を発展させる決め手となるような商品は、いまだ登場していないのではないでしょうか。
ゲームのダウンロードコンテンツが、それなりに手間のかかったものであっても中々ユーザーの満足度を高めることが難しい理由には、ゲームの価値が相対的に低下している、ということが挙げられます。