今注目すべきクラシックの演奏家は?
大:こうしてベスト10を見てきたわけですが、現役の人が少ないですね……。北:ギーレン、ラトル、バティアシュヴィリ、グリモー、ユジャの5人しかいないですからね。若い人がトップになってほしいですね。グリモーが今後そういう感じになりそうですが。
大:グリモーの盤は確かに素晴らしかったです! 音が明るくきれいで、ネルソンスも細かな強弱など丁寧に振り、充実したインパクトある演奏でした。9位の若手ユジャはまた別というか、本当に上手くて驚きますね。ラフマニノフの協奏曲も、バリバリ弾かず、さらっと弾いちゃうんですよね。
北:そう、大変な難曲なのに普通に弾けるんですよね。
大:彼女はショートカットにミニスカートじゃないですか。あれが象徴的だと思います。この曲の名演に同じ女流ピアニストのアルゲリッチによる演奏がありますが、彼女は髪も長くてスカートも長いじゃないですか。そういう重さがユジャの頭の中に元々ないんだと思います。
北:笑。確かに良い意味でよく転がるというか、音楽の流れが良いですよね。ラフマニノフに連想してきた重厚的な面と、今まで聴いてきたホロヴィッツ含めたロシアのピアニストの系譜、それらとは違って聴こえますね。
大:ですよね。僕、一つ驚いたことがありまして、このCDのライヴのトレーラー映像を見ると、楽しそうに笑みを浮かべて余裕で弾き、なんとピアノに合わせて歌っているんですよ。声が出てるわけではないですが。
北:そうなんですか!
大:ホロヴィッツとかがそんな風に弾くわけがなく、曲の捉え方が全然違うんだと思いました。新時代のラフマニノフ、という感じですね。プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番という比較的知名度の低い曲も入っていますが、こちらはモダニズムな無機質な部分がある曲で、彼女の爽快な弾き方が、また合っていました。美しい場面での透明感のある恍惚とした弾き方も見事でした。こちらもぜひ聴いてほしいですね。
北:そうですね。10位以降のランキングを見ると、現役で人気なのはベスト10と同様に女性のソリストばかりです。アルゲリッチのルガーノ・フェスティヴァルのライヴ、チョン・キョンファ(ヴァイオリン)の東京のライヴ、ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)のブルッフ、イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)のバルトークなどですね。
大:イザベル・ファウストは今年出したのが、ウェーバーの室内楽とバルトークの協奏曲というのが渋かったですね。
北:そうですね。彼女の人気はとても高く、去年出したベートーヴェンの協奏曲は去年のランキングの3位でした。今回も曲がメジャーであれば10位内に入ったと思います。
大:艶やかなバティアシュヴィリに対して、理知的なファウストと、全く対照的なのが面白いですね。良いライバルというか。
北:確かに違うのに、売れ方が似ています。同じお客さんがどちらも買っているのではないかと思います。
大:どちらも今が旬で、比較して聴きたくなりますよね。
北:それにしてもやはり、若い指揮者、そして男性にもっとがんばってほしいですね。去年も大体同じなんですが、男性はラン・ラン(ピアノ)のプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番がようやく15位に来るくらいで、あとは大巨匠のポリーニによるベートーヴェンのソナタ、怪我から復活したヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)によるベートーヴェンのクロイツェル、人気実力派チェリスト、ケラスによるエルガーの協奏曲くらいですね。オーケストラものも、ラトルが2位に出ましたが、もっと出てほしいですね。若い指揮者は良い方がいっぱいいますので。
大:今回もソリストの伴奏指揮に若手の実力派が揃っては、いるんですよね。バティアシュヴィリのティーレマン(54歳 ※若手とは言えないですね。。)、グリモーのネルソンス(35歳)、ユジャのドゥダメル(32歳)。
北:ほんとですね(笑)、この人たちがメインのものがもっと出てほしいですね。
大:そうですね、ソリストのCDの方が上位になっているわけですね。
北:若い指揮者は20位にやっとドゥダメルによるR.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」が出てきます。
大:ドゥダメルは次期ベルリン・フィルの首席指揮者?などとも噂される世界的にとても期待の高い指揮者で、この盤はそのベルリン・フィルを振った初の録音ですよね。以前のベルリン・フィルの首席指揮者で“帝王”と呼ばれたカラヤンが強固な関係で磨き上げた演奏の壮麗さとはまた違って、流れが良くみずみずしさがありますね。長年のパートナーであるシモン・ボリバル交響楽団を振った9位のユジャ・ワンの伴奏も見事でした。丁寧さに、瞬発力のある俊敏さ、劇的なうねりもあり、素晴らしかったです。
北:意欲的によく付けていましたよね。38歳のネゼ=セガンも2012年より名門フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督となった期待の指揮者で「春の祭典」とストコフスキー編曲バッハ作品を入れたアルバムが39位に入っています。日本にあまり来ていないということもあり、これからのブレイクが期待されます。
大:彼もまた本当に新時代の指揮者で、重さがなく軽いんですよね。エアリーというかパステルカラーというか。すごい個性だと思います。2014年6月にフィラデルフィア管と来日するのが楽しみです。
北:ユロフスキー(41歳)も面白いですね。結構売れてきています。日本でまだあまり知られていないですが、出している盤は面白いですね。
大:確かにユロフスキーはマニアックな曲もCD出していますしね。僕も以前に「12月に聴きたいクラシックの名曲」という記事を書いていて、そこで彼の振るオネゲルの『クリスマス・カンタータ』を紹介しました!
北:いいですねぇ(笑)。ユロフスキーはかなりこだわりをもって指揮しているな、というのを感じます。
大:今、飛ぶ鳥を落とす勢いのパーヴォ・ヤルヴィがランキングに入っていませんね?
北:彼はプーランクの「スターバト・マーテル」など出したのですが、もう少し早く出れば入っていたとは思います。
大:実力だとNo.1クラスですよね。
北:そうですね、本当は入ってほしかったですが。
大:ネルソンスはグリモーの伴奏だけですね。
北:ネルソンスのCDは実は売り場の反響がまだイマイチで……。
大:なんと! 僕、大絶賛して応援している指揮者なのですが……。
北:確かに素晴らしいですよね。2013年秋に音楽監督を務めるバーミンガム市響と共に来日もしましたよね。
大:ベルリン・フィルとロイヤル・コンセルトヘボウという大人気オーケストラと同じ日程の来日で気の毒でしたが、なんのその、ネルソンスほぼ満席でしたよ。
北:そうでしたか。これから売れてくる指揮者だと思いますね。今年はずばりハマるものがなかったですが、来年は上位に来るのではないでしょうか。若いですが、オーケストラを掌握する術を持っているようですね。そのネルソンスの師匠のヤンソンス(70歳)は今年出したのがショスタコーヴィチの10番にマーラーの中でも人気の渋い8番でしたので上位には行きませんでしたが人気の指揮者ではあります。曲が違えば売れますね。アバドも出せば上位に来るのですが、彼が伴奏である協奏曲の録音が多かったので。
大:アバドは80歳という高齢にも関わらず、録音の数がとても多くないですか? しかも協奏曲の伴奏ばかりで“協奏曲おじいさん”みたいになっていますよね。
北:笑。そうなんですよね。交響曲や管弦楽曲で新譜をもっと聴きたいですね。ラトルは、ハルサイほどまでとは言いませんが、ラフマニノフの合唱交響曲「鐘」と交響的舞曲を収録した盤は大変素晴らしい演奏でした。これらの曲は「これが決定盤」みたいな見事さです。
大:指揮者は40代、50代が揮わないですね……。人気指揮者と言えば、現代のカリスマの一人とも言えるゲルギエフ(60歳)は最近どうです?
北:売れに売れた以前ほどではないですが、ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」が売れました。あっさり系に対する肉食系的な音楽というか、もうちょっと広く聴かれてほしいですね。
といろいろ聞いてきましたが、ここまで紹介してきたものを含む40位までのアルバムが2014年1月13日(月)まで特別プライスで発売中だそうです。
最後に、売り上げ1位も出し、ますます注目のタワー・オリジナル企画からオールアバウト読者にオススメのCDを尋ねました!