劇団四季×寺山修司の異色コラボから生まれた、観客参加度No.1ミュージカル『はだかの王様』
上演時間=約2時間15分(休憩込)『はだかの王様』 王様ととりまきの人々 撮影:阿部章仁
・ちょっと前まで赤ちゃんだった子供が、Eテレの『おかあさんといっしょ』や、こどもちゃれんじの童謡コーナーを観ながら踊るようになってきた。そろそろ観劇デビューさせてみたいけど大丈夫?(←本作では最初、二幕冒頭、終幕に「幕をあける歌」をみんなで歌い、手拍子を打ちます。俳優さんたちは上手に、やさしく教えてくれるので、すぐに覚えてしまうでしょう。このひとときのあまりの楽しさに、子供の頃に観てから何十年たっても覚えているという大人の話もよく聞きます!)
・ファミリーミュージカルとはいえ、親をも唸らせるような内容であってほしい。(←台本は日本文学・演劇史に大きな足跡を残した寺山修司。分かりやすい構成・台詞ですが、ところどころにテラヤマらしい「刺さる」台詞がちりばめられています!)
・贅沢なビジュアルで、非日常にどっぷりと浸かりたい。(←おしゃれな王様の話とあって、本作の衣裳はキャラクターを反映した、華麗で美しいものばかり。ファッション好きのお母さんなら「これはあのデザイナー風」などとチェックする楽しみもありそう。でもやっぱり一番衝撃的なファッションは、王様の……あれ、ですよね!)
〈何歳から大丈夫?〉
『はだかの王様』 アップリケとホックが会場の観客に向かって「一緒に歌いましょう!」とレッスンしてくれます。 撮影:阿部章仁
〈どんなミュージカル?〉
童話の王様ことアンデルセンの有名な童話を、日本の劇作家・歌人、寺山修司が劇化。おしゃれ好きの王様が、ペテン師の言葉にのせられてしまったことで起こる大騒動を描きます。誰もが知っている童話ながら、クライマックスでははらはらどきどき。「真実を教えてあげなくちゃ」と観客も歌で参加します。劇団四季が1964年に初めて手掛けたファミリーミュージカルで、いずみたくさんらによる親しみやすいメロディ、オリジナリティ溢れる美しいビジュアルも魅力的な傑作ミュージカルです。
『はだかの王様』 王様は遂に「お馬鹿さんには見えない服」を試着します。 撮影:阿部章仁
『はだかの王様』 王女サテンと恋人のデニム。王様はデニムの服装がイマイチという理由で二人の結婚に反対するのですが……。 撮影:阿部章仁
〈ここが見どころ!〉
・寺山修司ならではの言葉遊びと台詞
まず楽しいのが、キャラクターのネーミング。物語の水先案内人の二人組は「アップリケ」と「ホック」。王妃、王女は「パジャママ」「サテン」で、大臣たちは「モモヒキ」「ステテコ」「アロハ「チェック」「ブルーマー」、ペテン師たちは「スリップ」「スリッパ」と、ファッション関係の名詞から楽しげな響きのものを選び出し、王妃にはさらに「マ」をつけて駄洒落風にもしたりと、遊び心満点です。また、お針子が眼鏡について「おぼろげに美しい人生をあじけない現実に変えてしまう」と言ったり、少年が「嘘をつくのはなぜだろう」と歌う際に「空が青いのはなぜだろう」と人間の性癖と自然を並列させたり、目に見えない洋服を糾弾する少年に大人がしみじみと「でもね、幸せってやつは目に見えないものなんだからね」と語りかけたり。ところどころに垣間見える寺山の詩的センスが、作品に奥行を与えています。
『はだかの王様』 「お馬鹿さんには見えない洋服」製作現場を見に来た王様 撮影:阿部章仁
劇団四季美術部がデザインした衣裳は、それぞれに個性的。劇中「チェックバーバリータータン嬢」と呼ばれていた衣裳大臣チェックのドレスは、ヴィクトリア朝風でもあり、ヴィヴィアン・ウェストウッド風でもあります。フリルフリルがデザインした王様の喪服はクジャクのように広がり、紅白歌合戦での小林幸子さんの衣裳風。運動大臣アロハの虹色のコートは、ロイド=ウェバーのミュージカル『Joseph and his Amazing Technicolor Dreamcoat』の衣裳を思わせます。またお針子たちが王様の服を「チッカラトン」と踊りながら織るシーンでは、彼女たちのとりどりのパステルカラーのドレス&ターバンが、幻想的な情景におおいに貢献。お子さんと「どの衣裳が好きだった?」と話題にするのも楽しいでしょう。高橋知子さんのデザインによる、どことなく人の顔を思わせる織機や、王冠型の部屋の扉などの装置も素敵です。
《子連れ観劇レポート》
『はだかの王様』 王様をペテンにかけるスリップとスリッパ 撮影:堀勝志古
この日は全国公演の一環で、会場は東京近郊。駅前のショッピングセンター内のホールには大人と幼児~小学生がほぼ半数ずつつめかけていました。都内の四季劇場での公演と比べるとかなりカジュアルな空気で、緊張感はほとんど無し。でも子どもたちはノリノリで、幕開きにホックとアップリケが「一緒に歌いましょう」とレッスンを始めると、最初から大声で歌っていました。(劇団四季ファンのママ・パパから事前に習っていたお子さんも少なくなかったと推測されます)。
我が子もリラックスしてこのレッスンに参加。最初は「パンパンパパン」と打つ手拍子が難しいようで、「パンパンパンパン」になってしまっていたのが、最後には「パンパンパパン」になり、歌詞も妖しい日本語ながら、なんとなく覚えるまでに至りました。この歌を冒頭、2幕頭、2幕幕切れと3回も歌えることで、刷り込み効果は抜群。帰宅後も、こちらが「手~を~たたいて」と歌いかけると我が子が反射的に手拍子を打ち、親子の秘密の暗号のようになっています。初めての子連れ観劇に不安を感じる方は、こういった郊外での全国公演を利用してみるのもいいかもしれません。
*公演情報*『はだかの王様』上演中~2014年3月5日=浜松、佐賀、沖縄を巡演中