糖尿病

糖尿病食事療法のための食品交換表…改訂後のポイント

糖尿病食事療法のために食品交換表が11年ぶりに改訂になりました。いくつかの改訂ポイントがありますが、特筆すべきは栄養素の比率についての考え方が大幅に変更されたことです。今までとは考え方が180度違う新しい食品交換表の変更点と上手な使い方を解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

『第7版 糖尿病食事療法のための食品交換表』の改定のポイント

平成25年11月糖尿病食事療法のための食品交換表(以下「交換表」)が改定になりました。 前回の改定が平成14年の5月でしたから、11年6ヶ月ぶりの改定です。

細かいところを言えば、
  1. 表3(魚介、大豆とその製品、卵、チーズ、肉)」のイメージカラーが青から赤に変わり、小学校で最も多く教えている主食=黄色、主菜=赤、副菜=緑とした「三色食品群」のイメージカラーに揃えられた
  2. 各表の1単位(80kcal)あたりの平均栄養素含有量が変更になった
  3. 食物繊維を多く含む(具体的には1単位中に食物繊維を2g以上含む)食品にマークが記載された
  4. 農林水産省の野菜の摂取量の推奨が350gとなったことから表6が1.2単位に増量になった
  5. 収載食品や、参考資料中の料理の追加や料理名の変更
などがあります。

しかし、最も注目すべき点は、「1日の指示単位(指示エネルギー量)の配分例(以下「配分例」)」の考え方です。第6版では「エネルギー量」だけを考慮して表1~表6+調味料に配分していましたが、第7版では「エネルギー量」に加えて「炭水化物のエネルギー量に占める割合」を考慮して配分することと変更されました。

エネルギー配分の「推奨」は
炭水化物60%から炭水化物50~60%へ

エネルギー源となる栄養素は炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質の3つがあります。この3つを総称して「三大栄養素」と呼ぶこともあります。エネルギーを各栄養素に配分するための根拠は第6版には記されていませんが、健康人の食事について書かれている「第6版 日本人の栄養摂取量(策定当時使用)」に「たんぱく質10~20%、脂質20~25%、残りを炭水化物(糖質)で」というのが日本人に適した栄養素の配分であると記されていることからこれを基準としています。この比率で計算すると、「残り」とされた炭水化物は約60%になります。第6版はこの割合に準じて、表1~表6に配分した配分例があり、エネルギー量の指示に沿って、配分例を確認すれば何をどのくらい食べればよいかが分かるようになっていました。

ところが、第7版では、三大栄養素の配分の推奨が「炭水化物(糖質)50~60%、たんぱく質を標準体重1kgあたり1.0~1.2g、残りを脂質で摂ること」と、変更になりました。

「残り」とされた炭水化物が配分のための推奨の筆頭に上がったのです! これに伴って、配分例が大きく様変わりすることになりました。

炭水化物の割合を決める条件とは

炭水化物(糖質)の割合が50~60%と幅ができたことから、配分例も炭水化物60%、55%、50%の3つが用意されることになりました。どの配分例を使うかは(1)患者の嗜好、(2)どのくらい太っているか(肥満度)、(3)糖尿病の合併症の有無などを加味して主治医が決定することになっています。患者の嗜好については、ご飯やパン、麺などが好きか、肉や魚が好きかなど、患者様ご本人の意向を考慮すればよいのですが、問題は(2)肥満度合いと(3)合併症の有無の考え方です。
低炭水化物ダイエットと低脂質ダイエットではどちらがやせるのが早いかというと、低炭水化物ダイエットのほうがやせるスピードは早いことが分かっています。ダイエット開始から6ヵ月後は低炭水化物ダイエットのほうが有意に体重が減っているという報告も多数あります。しかし、1年後くらいから低炭水化物ダイエットと低脂質ダイエットの効果はほぼ互角となるとも報告されています。炭水化物50%、55%の低炭水化物ダイエットはやる気をアップするために短期間だけ行うのがよいと思います。

しかし、いくらやる気アップにつながると言っても、絶対に低炭水化物ダイエットを行ってはいけない人がいます。それはどのような人でしょうか。

腎臓に負担がかかっている人は、低炭水化物ダイエットは危険

炭水化物の割合を減らすと、相対的に「たんぱく質」と「脂質」の割合が増えます。脂質の割合を増やすと、食べられる「量」が減ってしまうので、空腹を覚えてしまいます。そのため、「脂質」と「たんぱく質」の両方の量が増えることになります。

たんぱく質が増えると心配になるのは「腎臓」です。腎臓のろ紙である糸球体は血液をろ過して、尿を作る仕事をしています。血液中の成分のひとつであるたんぱく質は分子が大きいので、糸球体を通過することができません。そのため、たんぱく質はろ過されずに体内にとどまり、再び、体内を巡回し、必要なところでエネルギーになったり体成分になったりします。ところが、多量のたんぱく質は糸球体の網目を広げてしまい、本来であれば糸球体を通過してはいけない物質も糸球体を通過してしまうようになります。さらに、本来であれば尿中に排泄されるべき物質が正常に排泄されなくなってしまいます。これが悪化して、食事療法や薬物療法だけでは立ち行かなくなると、腎臓透析をすることになります。

日本糖尿病学会の考えでは、この交換表を使えるのは腎臓病第2期まで。腎臓病期が第3期以降になった場合には、「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」を使用することになります。詳しくは「「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」を解説します」にて解説しましたが、この交換表に輪をかけて手間のかかる内容です。できれば、食事療法はこの交換表だけでよいレベルに腎機能を維持できるよう、がんばって治療をしていきたいものです。

たんぱく質は皮膚や筋肉などの臓器の主成分となる栄養素ですから、摂取量を完全にゼロにしてしまうことはできません。しかし、腎臓を守るには、多すぎるたんぱく質はかえって体に害を及ぼしてしまうのです。それでは、たんぱく質はどのくらい摂取すればよいのでしょうか。

配分例選択のカギとなるたんぱく質の推奨量

ここで思い出していただきたいのが、第7版の交換表にあった「推奨量」です。たんぱく質の推奨量は標準体重1kgあたり1.0~1.2gです。標準体重は、BMI=22kg/m2のときの体重です。

「BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗」ですので、標準体重(kg)=身長(m)の2乗×22になります。例えば、身長160cmの場合、標準体重(kg)=1.6×1.6×22=56.3kgとなります。BMIの詳細はBMIと体脂肪率からタイプ別チェック!~診断編~でご覧下さい。

さて、身長160cmの人を例に推奨されているたんぱく質量を計算してみると、必要なたんぱく質量は56.3~67.6g(=56.3kg×1~1.2g)です。ここで第7訂の配分例を見てみます。3つの配分例のたんぱく質量を見てみると、指示カロリーが18単位(1440kcal)のとき、炭水化物60%では60g、55%で66g、50%で68gです。20単位(1600kcal)だと炭水化物60%で70g、55%で72g、50%で78gです。

肥満者でダイエットが必要な場合は、指示カロリーも低いと思われますので、18単位(1440kcal)の指示の人もいるでしょう。その場合は炭水化物の割合を低くしてもギリギリですが、推奨範囲と言ってもよいと思われます。体重減少のスピードも低炭水化物食のほうが早いので、主治医から50%でやりましょうという指示が出る場合もあると思います。しかし、身長160cm程度で普通体型の社会人の方では、指示カロリーが1600kcal以上であることはまれではありません。その場合は、55%・50%ではたんぱく質の摂取量が推奨量を超えてしまいます。そのため、配分例の炭水化物55%と50%のページには右上に赤い文字で腎臓に負担がかかっている人についての注意喚起の文章が掲載されています。(恐らく20単位(1600kcal)以上の指示の場合、肥満があったとしても主治医から60%で実行して下さいと指示があると思います。)

糖尿病の3大合併症は「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」です。今現在、腎臓に負担がかかっていない人でも腎臓に過度の負担をかけると合併症を引き起こしてしまうリスクが高くなります。よほど「米は大嫌い」などの嗜好的な問題がない限り、炭水化物60%の配分例を使って食事療法を行うのがよさそうです。

変化する食事療法……かかりつけ医や管理栄養士に相談を

第7訂の交換表の表紙をめくったところに「私の食事療法」というページがあります。第6訂までは真っ白だったこのページに、なぜこのようなページができたのでしょうか。このページを見ると、同じ表が4つ。なぜでしょうか。

糖尿病の食事療法もずっと同じであるとは限りません。肥満であった人が標準体重になれば、炭水化物の割合を上げる必要が出てくることもあると思いますし、転職によってライフスタイルが変われば、そのときも食事療法のやり方が変わってきます。

そのような「変化」に対応して食事療法も刻々と変わっていきます。自分の体の変化に合わせて、上手に食事療法を行っていきましょう。そのためには、是非、かかりつけ医や管理栄養士を上手に活用して下さい。
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