セルフ・カヴァー選曲基準
ガイド:今回はムーンライダーズの「だるい人」、有頂天の「僕らはみんな意味がない」、秩父山バンドの「DEAD OR ALIVE(FINE, FINE)」がセルフ・カヴァーされています。これらの曲を取り上げた理由は?
鈴木:
カヴァーはね、全部KERAのアイデア。3曲カヴァーしようと。
KERA:
カヴァー曲が最初に決まってると、そのあとが見えやすいだろうなと思って。当初はスーダラ調の曲とか、ホンダラとかスーダラ的な、それ自体では意味をなさない言葉が散りばめられてるようなものばっかりになるかもしれないなと思ってたのですが、カヴァーが決まったことで、そうではないものになることも見えてきた。
鈴木:
あと、互いの曲の一番を、例えばKERAの曲の一番を私が歌ってて、「だるい人」の一番をKERAが歌ってる。そのへんもKERAのアイデア。
ガイド:
有頂天の「僕らはみんな意味がない」が選ばれたのも…
KERA:
世界観に合うものだったからですよね。
鈴木:
有頂天がやってるオリジナルはとてつもなくアヴァンギャルドなピアノが入ってたりする。これをカヴァーするのは大変だなとは思ったんだけど、随所に変なものを入れていけばいいかなって。まずイントロが変だよ。
KERA:
あのイントロも奇妙な感じですよね。明るいんだか暗いんだかよく分かんない。ちょっと一時期のブライアン・イーノみたいな感じもするし。
蛭子能収さんの作詞
ガイド:「だるい人」で蛭子能収さんを作詞に起用したのはどういう理由からだったのですか?
鈴木:
あの曲は(ムーンライダーズのメンバー)全員で作ったのね。誰がどのパーツを作ったのかもう忘れちゃったけど、こんな無責任感溢れる曲ないよなということで、歌詞を誰に頼もうってなった時に鈴木博文がガロ・マニアだから、「ガロにマンガ描いてる蛭子さんてのがいいんじゃないの?」って。鈴木博文は亡くなった渡辺和博の(漫画からインスパイアされた)歌詞作ってるからね。「ジャブ・アップ・ファミリー」とか。で、蛭子さんに頼んでみたら、「やりますが、(歌詞を)書いたことない」。それで私がメロディを記号に直した。点で長い短い高いとか書いて、それに歌詞をはめてくださいって。
ガイド:
そうしたら、こういう脱力した歌詞があがってきたと。
鈴木:
“突然、足がだるくなり”、だもんな(笑)。この人に頼んだら面白いのがくるかなと思ったら、それを超えるものがきたね。出会い頭の一発って感じじゃないですか。
ガイド:
この曲が発表されたのは86年ですよね。バブルに向って時代がイケイケになり始めている時で。
鈴木:
蛭子さんがテレビに出だす前でしょ。だから蛭子さんが漫画家としてヒーヒー言ってる頃だと思うんだ。で、世の中はバブリーになっていく頃じゃない。それとビックリハウス的なものとが同居してたよね。だからサブカル的な奇妙さがあるんじゃないですか、あの歌詞は。
ガイド:
今だと、ちょっとでもブラックなギャグを言うと「失礼なことを言うな」って、正論を吐く頭の固い人たちが攻撃してきて炎上したりするじゃないですか。そんな息苦しい時代にこういう曲をセルフ・カヴァーするのって、過激なことですよね。
KERA:
でも戦っているっていうより、普通にダラッと出した感じだよね。
鈴木:
どちらも毒舌なので、毒針が出るんじゃないですか。
ガイド:
毒針でチクッと刺すと。
鈴木:
だから意外とダラッとしてないんだよね。イメージとしてスーダラな感じだけど、実はひじょうにタイトに「けっけらけ」って言ってるし。
KERA:
脱力は何曲かでいいのかなとも思ったんですよ、飽きるから。「DEAD OR ALIVE(FINE,FINE)」や「だるい人」は絶対スーダラな歌い方になるから、それでいいかなと思ったんですけど、「けっけらけ」は戦闘ものみたいに歌ってみた。
ガイド:
スチャラカな面だけを出そうとしたわけではないと。
KERA:
スチャラカも幅が広いってことですね。「だるい人」もある程度はスーダラなんだけど、そこには悲壮感もあるし、怠惰なだけっていうところもあるじゃないですか。「DEAD OR ALIVE(FINE, FINE)」はたしかにエゴイスティックな歌詞だもんね(笑)。