世界遺産/世界遺産とは

無形文化遺産とは(4ページ目)

「世界遺産」「世界の記憶(世界記憶遺産)」と並ぶUNESCO三大遺産事業のひとつ、無形文化遺産。無形文化遺産保護条約では代表リスト・緊急保護リストというふたつのリストを用いて、形に残らず、人づてにしか伝えられない形のない文化遺産を保護している。今回は能や歌舞伎、和食に代表される無形文化遺産を紹介する。国別ランキングや代表的な無形文化遺産リスト付き!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

無形文化遺産の一例:儀式・祭礼

ボラドーレスの儀式

メキシコの無形文化遺産「ボラドーレスの儀式」。足と木を結ぶロープ以外に命綱はない。このリスクも神との交信に必要な要素なのだ

■宗廟祭礼と宗廟祭礼楽(韓国、2001年、代表リスト)
宗廟祭礼(宗廟大祭)は世界遺産に登録されている宗廟で行われる朝鮮王朝時代の祭礼。王室が氏神に感謝を捧げて国家・王室の繁栄を祈る儀式で、現在は王室の子孫が5月の第一日曜日に執り行っている。王の神輿(みこし)を中心に文官・武官・舞妓たちが色とりどりの衣装に身を包み、王宮である景福宮から宗廟にかけて練り歩く。

■ボラドーレスの儀式(メキシコ、2009年、代表リスト)
ボラドーレスはスペイン語で「飛ぶ人」。主にトトナカ族に伝わる儀式で、4人の若者が20~40mほどの木に登り、足と木の頂上をロープで結んで手を離し、木を回転させることで4人が鳥のように空を飛ぶ。神々に祈りを捧げる儀式のひとつだが、木の頂上は太陽を意味するなどトトナカ族の世界観や生活と密接に結び付いている。


無形文化遺産の一例:工芸技術

■インドネシアのバティック(インドネシア、2009年、代表リスト)
主にジャワ島に伝わるロウけつ染めで、ジャワ更紗の異名を持つ。色が不要な部分にロウを塗って染色し、熱湯でロウを落とすことで白く残し、さらにロウを塗って別の色を染め付け、これを繰り返して精緻な図柄を描いていく。冠婚葬祭で異なる図柄を用いるなどバティックは暮らしに直結しており、彼らの宗教観・世界観と深く関係している。

■ホレズ陶器の技能(ルーマニア、2012年、代表リスト)
ホレズ村に伝わる伝統工芸品がホレズ陶器だ。17世紀、世界遺産に登録されているホレズ修道院が建設されると修道士たちは陶器の製造をはじめ、やがてホレズ村はルーマニア随一の古窯となる。男女分業で陶器を生産しており、男たちは土を練って形を作り、女たちは色をつけて絵を描く。その図柄は鮮やかで、特徴的な白はホレズ・アイボリーと呼ばれている。


無形文化遺産の一例:料理術

■伝統的なメキシコ料理-先祖伝来で現存の共同体文化・ミチョアカンのパラダイム(メキシコ、2010年、代表リスト)
トルティーヤ

メキシコ料理の主食、トルティーヤ。トウモロコシから作った一種のパンで、アジアの小麦のパン=ピタ(あるいはホブス、チャパティ)とよく似ている

2000年以上の歴史を誇るメソ・アメリカ文化を代表する料理がミチョアカン州を中心とするメキシコ料理だ。トウモロコシや豆類といった穀物、トマトやアボカドなどの野菜、トウガラシやバニラをはじめとするハーブを駆使した料理は味覚・栄養両面にすぐれる。またカカオが神に捧げる聖なる食物であるように文化の重要な表現でもあり、儀式や農業技術なども無形文化遺産として登録されている。

■和食:日本人の伝統的な食文化(日本、2013年、代表リスト)
日本の食文化である和食には、多様で新鮮な食材と素材の味わい、バランスがよく健康的な食生活、自然の美しさの表現、年中行事との関わりという4つの特徴がある。いずれも自然と密接に関係した社会的慣習で、自然に神を見て畏敬して生きてきた日本人の精神がよく表されている。無形文化遺産には和食そのものではなく、こうした慣習が広く登録されている。

 

無形文化遺産の一例:口承表現

■イフガオ族のハドハド詠唱(フィリピン、2001年、代表リスト)
フィリピン・コルディリェーラの棚田群

フィリピンの世界遺産「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」登録のバタッド村。ここで暮らすイフガオ族の間に伝わる詠唱がハドハドだ

世界遺産に登録されているコルディリェーラの棚田群とその周辺に暮らすイフガオ族。イフガオ族の人々は神々や先祖に関する伝説、田植えや稲刈りの技術、日々の生活の教訓や知恵といった知識をハドハドと呼ばれる歌に込めて親から子へと伝えている。歌の数は200を超え、すべて演奏すると数日間を要するほど。

■アル・シラー、アル・ヒラリヤの叙事詩(エジプト、2003年、代表リスト)
アラビア半島から北アフリカへと移住した遊牧民族ベドウィンのある部族の伝説を綴った叙事詩。かつては北アフリカを広く支配したが、繁栄は1世紀ほどでやがて消滅。その武勇伝は叙事詩としてアラブ人の間で語り継がれている。この詩は5歳頃から修業をはじめたプロの詩人によって口承のみで伝えられ、ラバーバなどの弦楽器の演奏に合わせて詠唱される。

 

無形文化遺産の一例:空間・知識

ジャマ・エル・フナ広場の文化的空間

モロッコの世界遺産「マラケシュ旧市街」登録地でもある無形文化遺産「ジャマ・エル・フナ広場の文化的空間」。このように世界遺産と関連する無形文化遺産も少なくない

■ジャマ・エル・フナ広場の文化的空間(モロッコ、2001年、代表リスト)
ジャマ・エル・フナ広場は毎晩数多くの出店や芸人でにぎわっている。飲食物の屋台はもちろん吟遊詩人や大道芸人・民族楽団・舞踏家といったパフォーマーから伝統医学の医師やシャーマン・陶工・金細工師などの技術者まで、民族・宗教を問わず多彩な文化が交流している。一子相伝で伝えられる技術もあり、技を披露する数少ない場にもなっている。

■ミジケンダの聖なるカヤの森林に関する伝統と慣習(ケニア、2009年、代表リスト)
ミジケンダ族に伝わるカヤは村落&森林一帯の生活圏。森は水や食糧・薬・住居等々を与える神聖な存在であると同時に、飢餓や病・死をもたらす呪わしい存在でもある。カヤは宗教装置であると同時に日々の生活や結婚・出産などのイベントを行う生活の場でもあり、ミジケンダのアイデンティティをよく示している。「ミジケンダの聖なるカヤの森林」はケニアの世界遺産にも登録されている。


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