世界遺産/世界遺産とは

無形文化遺産とは(3ページ目)

「世界遺産」「世界の記憶(世界記憶遺産)」と並ぶUNESCO三大遺産事業のひとつ、無形文化遺産。無形文化遺産保護条約では代表リスト・緊急保護リストというふたつのリストを用いて、形に残らず、人づてにしか伝えられない形のない文化遺産を保護している。今回は能や歌舞伎、和食に代表される無形文化遺産を紹介する。国別ランキングや代表的な無形文化遺産リスト付き!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

無形文化遺産保護条約までの道のり

インドネシアのバティック

ロウけつ染めが美しい無形文化遺産「インドネシアのバティック」。伝統を受け継ぎながら時代に即した新たな模様が日々誕生している

1972年、UNESCOは世界遺産条約を採択し、普遍的価値のある自然遺産や文化遺産を保護する活動を開始した。しかし、近年のグローバル化や急速な西欧化によって消滅するのはこうした有形の文化遺産だけでなく、特に伝統芸能のような無形文化遺産は継ぐ者も少なく、有形の遺産以上に急速に失われる傾向にあった。

また、アジアやアフリカの諸文化のように木や土を中心とする文化では何かを形として残すことを重視せず、重要な文化遺産は主に口承で伝えられた。こうした形の文化遺産を保護する新しい条約が必要とされていた。

そこでUNESCOが1998年に採択したのが「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」だ。そして2001年・2003年・2005年の3回にわたって傑作宣言を行い、条約締結国の中の保護・継承すべきすばらしい無形文化遺産計90件を発表した。

そして2003年には待望の「無形文化遺産の保護に関する条約」、すなわち無形文化遺産保護条約が採択され、2006年4月に発効した。日本も同年6月に批准している。

2009年には代表リスト・緊急保護リスト作成がはじまり、代表リスト166件、緊急保護リスト12件を掲載した。「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」の90件はここに吸収されている。

以下では無形文化遺産の一例を紹介しよう。分類はわかりやすいようにガイドの主観で区切ったもので、このようなジャンルが明示されているわけではない。


無形文化遺産の一例:音楽

アルゼンチン・ウルグアイの無形文化遺産「タンゴ」

人々の生活に根付いたアルゼンチン・ウルグアイの無形文化遺産「タンゴ」。その音楽・ダンスは南米・ヨーロッパ・アフリカの文化が融合してできあがった

■モンゴル人の歌唱芸術、ホーミー(中国、2009年、代表リスト)
ホーミーはノドを笛のように用いて口から複数の音を出す喉歌の一種。同じくモンゴルの代表リストに登録されている「馬頭琴の伝統音楽」とともにモンゴル人の伝統的な音楽で、自然や祖先に対する礼賛・感謝を込めて、主に祭礼時に歌われている。

■タンゴ(アルゼンチン/ウルグアイ共通、2009年、代表リスト)
ブエノスアイレスとモンテビデオの貧民街で先住民・ヨーロッパ植民者・アフリカ人奴隷の文化が混ざり合い、独自の音楽・ダンス・詩を持つタンゴが誕生した。タンゴは地域社会で自分たちの文化の誇りとされ、民族や年代を超えて次世代へと伝えられている。似た無形文化遺産(代表リスト)にスペインの「フラメンコ」がある。


無形文化遺産の一例:舞踊

■メヴレヴィー教団のセマの儀式(トルコ、2005年、代表リスト)
セマは中東に広く伝わるイスラム神秘主義教団の旋回舞踊。スカート状の民族衣装を着て数時間にわたって回転を繰り返し、神に祈りを捧げる。特に有名なのがメヴレヴィー教団で、その踊り・歌・音楽のファンも少なくない。なお、別教団の「アレヴィー-ベクタシュ教団のセマ」もトルコの代表リストに記載されている。

■サマン・ダンス(インドネシア、2011年、緊急保護リスト)
アチェ州に暮らすガヨ族を中心に伝わる伝統舞踊で、カラフルな民族衣装を身にまとったダンサーたちが一列に座り、手や身体・大地を叩きながら歌い踊る。ダンスは大自然や生活の様子を表現したもので、彼らの宗教観や世界観を反映しているのみならず、村々で演奏し合うことでコミュニケーション・ツールとしても活用されている。


無形文化遺産の一例:祭り

コルドバのパティオ祭り

スペインの伝統的な中庭パティオを飾る美しい花々。「コルドバのパティオ祭り」のコンテストでは特に美しいパティオを毎年表彰している

■コルドバのパティオ祭り(スペイン、2012年、代表リスト)
パティオとはスペインの伝統家屋に見られる中庭で、噴水やプール・ベランダ等を備えている。コルドバでは毎年5月にこのパティオを花々で飾って初夏を祝う。祭りではその美しさを競うコンテストが開催されるほか、フラメンコや合唱など多数のアトラクションが催され、地域の結び付きに貢献している。

■オルーロのカーニバル(ボリビア、2001年、代表リスト)
リオのカーニバル、ペルーのインティライミと並ぶ南米三大祭のひとつ。もともとはウル族をはじめとする先住民の祭りだったが、スペインに占領されて禁止されるとキリスト教のカーニバル(謝肉祭)を装って続けられた。神々に祈りを捧げる先住民の古い踊りからスペイン統治後の生活の様子を模した踊りまでその形は多彩で、踊りが文化の変遷を伝えている。
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