喫茶室で、静かに主張する2種類のお茶漬け
国道15号、通称第一京浜に面した山本山本店。店内へと進むと、広々した空間にお茶や海苔を中心とした各種商品や茶器などが並んでいます。空間はもちろん、接客する従業員の服装も含めて“和”の世界ですね。店内右手の通路を奥に進むと、イートインが可能な“喫茶室”があります。知る人ぞ知る、ではないかも知れませんが、これまで(個人的には)満席だったことはなく、ゆったりとした時間を過ごせる“穴場”的な印象です。
この日も2組のご婦人とわたし1人という室内。日本橋交差点界隈のにぎやかさとは隔離された空間です。大きな赤い和傘が置かれた喫茶室の人気は、“喫茶”の名の通り、お茶そのもの、またはお茶と和菓子のセットなどですが、この連載では専門外ということで他のガイドの方に委ねます。わたしの注目はずばり、「お茶漬け」です。
お茶と海苔のスペシャリスト、その老舗専門店が提供する「お茶漬け」とは……という興味深さ。こだわりのお茶漬けは2種類あり、「お茶屋のお茶漬け」と「海苔屋のお茶漬け」です。この日は前者、「お茶屋のお茶漬け」(900円)をいただきます。
運ばれてきたその内容は、まさにお茶屋さんのイメージそのもの。茶わん一膳のご飯に、砕いた海苔せんべいが載っています。かけるお茶は静岡の“煎茶”。左手前には、抹茶塩うめ味が添えられ、好みの味を調整しながら食べ進めます。
食後用の甘味は、菓子司「長門」の和菓子。こちらはお茶漬けに合うものを専用に製造、季節毎に変わるとのこと。使用する一つ一つの素材、抜かりがないですね。
オリジナルの抹茶塩うめ味がいいアクセントとなり、さわやかな食後。あくまで軽食なので、これだけでは量としてランチにはならないかと思います。個人的な同店の利用方法は、近隣のお店で飲食をした際に、“もう少し食べたいなぁ”と感じた場合にこちらへ伺います。プラス一食は無理でも、ご飯一杯なら、ちょうどおなかを満足させられるのでは……という使い方ですね。(お茶、和菓子付きとはいえ、お茶漬けに900円か……という思いも少しはありますが……)
上品さを引き上げるオリジナルの抹茶塩
別日、今度はもう1つのお茶漬け「海苔屋のお茶漬け」(900円)に向き合うべく同店へ伺います。こちらは、ご飯が海苔で覆い尽くされた姿で登場。海苔は有明海産の中でも最上質の原料を使用したもの、かけるお茶は宇治京ほうじ茶。添えられた塩は、うめ味ではない抹茶塩です。お茶をかけて少しすると海苔が溶け、ひとすくい毎、切れ目のない大きな海苔が絡みつくようなことがありません。うまくバラけて、お茶に溶け込むような感じです。瀬戸内海の「海人の藻塩」と、山本山の抹茶「千代の寿」をオリジナルブレンドさせた抹茶塩は、さらに上品さを引き上げる役割でしょうか。結論、2種類のお茶漬けはどちらも繊細で、甲乙つけがたい内容でした。あとは好みですね。
2種類、それぞれ考えに考え抜いた上での素材選びなのだろう……帰り際にそんなことを思いながらも、ふと1つの疑問が浮かびます。
なんで2種類にしたのだろう……。1種類での勝負、お茶と海苔の権威・山本山なら“究極のお茶漬け”を、世に問うことができるのでは?……余計な視点でしょうかね(笑)。
生類憐みの令発布の時代に歩みを始めたお茶と海苔の店で、お茶漬けはいかがでしょうか?
■山本山 本店(喫茶室)
・住所:東京都中央区日本橋2-5-2
・TEL:03-3281-0010
・営業時間:10:00~18:00 (※6・7月、11・12月は9:30~19:00まで)
・定休日:年中無休 (※元日除く)
・地図:Yahoo! 地図情報