異国情緒漂う「横浜山手」
「横浜元町商店街」は横浜市中区元町1丁目から5丁目までをまたがる約600m程のショッピングストリートである。車道はJR「石川町」駅方向の「元町」交差点から侵入する一方通行だ。通りの両側には個性的な店舗が立ち並び、どこででも手に入るような全国展開のブランドはほとんど見当たらない。出口は近年新設されたみなとみらい線「元町・中華街」駅に程近く、少し行けば氷川丸が停泊する山下公園がある。橋の手前を右折。ほどなく道は急な上り坂に入る。登りきった信号左が「港の見える丘公園」。右に曲がると、山手独特の街並みが広がっている。高台上のなだらかな起伏、緩やかに続くカーブの連続。その左右には、一般的な住宅街では決してみることのできない洋館が所々に点在している。
日本の大きな港の近くには、外国文化の色濃く残る街がある。長崎、神戸、函館。例えば北野異人館街(神戸)のスケールに比べれば、なるほど横浜山手は一つ一つの建築もたしかに小ぶりかもしれない。夜景のコントラストもまた然りだ。しかしながら観光色を最小限に抑え、あくまで住宅街としての佇まいを保つ様(さま)は至って日常的であり、ここにしかない趣を覚える。これは都市計画が現実の魅力として継承された成功例に他ならない。
210へタール超に及ぶ「風致地区」
具体的には210ha超にも及ぶ広大な風致地区の効用である。風致地区とは緑豊かな環境、歴史的景観を維持するために指定された地域で、建築物を建てる際はもとより、建物の色彩の変更や木の伐採を行うときさえ許可を要する場合がある。横浜市中区の「山手町」104ha、「根岸森林公園」以南111haがこれに指定されている。「港の見える丘公園」から西に、「根岸森林公園」まで車を走らせると街の景色が違うと感じるのはそのため。風致地区では、道路から建物までの間隔も一定幅空けなければならないと定められている。加えて、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)も低く抑えられているため、街並みに独特のゆとりが生まれるのである。
さて、長々と規制について述べた後で言うのもなんだが、それらは後追いの施策だ。起点にはこの一帯で展開された外国人のライフスタイルがある。外国人墓地などは有名だが、広大な敷地を誇る「根岸森林公園」は当初競馬場であったという。その後ゴルフ場になり、公園として開放された。アンジュレーションの利いた芝生広場はその名残である。