ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

チャン・ユジョンが語る、韓国musicalの“初恋”熱

この夏来日し、爽やかな感動を届けてくれた『兄弟は勇敢だった?!』。その作者チャン・ユジョンの初期作で、ソウルではロングランが続いている定番ミュージカル『あなたの初恋探します(原題キム・ジョンウク探し)』がこの秋、来日します。2011年にはその映画版を自ら監督してヒットさせ、現在は『兄弟は~』映画版の準備中……と、韓国創作ミュージカル界の中でも目覚ましい活躍を見せる彼女に、作品への思いをうかがいました。

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

今、韓国創作ミュージカル界で最も勢いがあるのがこの人、チャン・ユジョンさん。2005年に『おお、あなたが寝てる間に』でデビュー、2006年からソウルで断続的にロングランを続けている『あなたの初恋探します(原題キム・ジョンウク探し)』は、2011年に自ら監督した映画版もヒット。この夏来日した『兄弟は勇敢だった?!』、新作『あの日々』もヒットさせ、現在は『兄弟~』映画版の準備中です。ソウルの演劇街・大学路(テハンノ)の出世頭ともいえる彼女に、この秋来日する『あなたの初恋探します』にまつわるあれこれをうかがいました。

ロンドン・ミュージカルとボリウッド映画に触発されて

――チャン・ユジョンさんがミュージカルに関わることになった経緯を教えてください。

「私は1997年から2年間、イギリスに留学していました。当時ウェストエンドでは大型ミュージカルが花盛りで、『オペラ座の怪人』や『ジーザス・クライスト=スーパースター』等を観ては「こんな世界があるんだ……」と感激していました。当時はそこに自分が近づけるなんて思っていませんでしたが、その後インドに旅してボリウッドのミュージカル映画を見、「こんなに楽しい世界がある。こういうのなら自分も創れるかも」と思い立ち、2000年に帰国して韓国総合芸術学校に入学したのです。

チャン・ユジョンさん。(C)アミューズ

チャン・ユジョンさん。(C)アミューズ

学校でミュージカルの授業を担当されていたアメリカ人の講師は、韓国語のできない方でした。「それなら(宿題の戯曲を)下手に書いてもわからないんじゃないか」と勇気をもらって書いたのが、三国時代に題材を得た『松山野花』という作品です。台本と歌詞を書き、これに作曲の得意な学生に曲をつけてもらって公募に応募したところ、当選。勢いづいて在学中に『あなたの初恋探します』『おお、あなたが寝てる間に』と立て続けに書きました。これらに大学路の演劇界の方々が感心を持ち、上演して下さることになったのが、ミュージカルに関わることになったきっかけです」

韓国人が“初恋”にこだわる理由

――『あなたの初恋探します』が映画化されるほどのヒット作となったことで、ユジョンさんは一時期「ロマンチックコメディミュージカルの名手」と呼ばれていたそうですね。

「コミカルで楽しく、観た方が満足してくださるエンタテインメントを作るのが私の使命だと思っています」

『あなたの初恋探します』(C)アミューズ

『あなたの初恋探します』(C)アミューズ

――本作はタイトルが示す通り、キム・ジョンウクという初恋相手を忘れられず、いつまでも先に進めないヒロインのために「初恋探し請負人」の主人公がキム・ジョンウクを探すお話ですね。本作のタイトルにも「初恋」が入っていますが、ドラマ『冬のソナタ』はじめ、韓国のエンタテインメントではかなり頻繁に「初恋」という言葉を耳にします。なぜ韓国の方はこれほど初恋にこだわるのでしょうか?

「日本の方はあまりこだわらないんですか?(岩井俊二監督の映画)『ラブレター』を観て、私はてっきり日本人はみんな初恋に強い思い入れがあるのだと思っていました。初恋がこれほど(韓国で)特別なのは、そうですね、それだけ大人になった“今”が大変だということなのかもしれないですね。初めて誰かを意識して、まっすぐな思いを持つ。それはとても純粋な思い出ですよね。初恋に回帰することで、実際にはその頃に戻れなくとも、今の自分が癒されるということではないかと思います」

――本作では主人公とヒロインに加えて男性の俳優が登場し、ヒロインの父になったり駅員になったり、様々な役どころを演じますが、ソウル公演で拝見した時は、この「マルチマン」役が八面六臂の活躍で、とても面白く感じました。この発想はどこから生まれたのでしょうか?

ソウル大学路で『あなたの初恋探します』を上演しているプティッツェル・シアター。(C) Marino Matsushima

ソウル大学路で『あなたの初恋探します』を上演しているプティッツェル・シアター。(C) Marino Matsushima

「基本的に本作は男女の恋物語ですが、物語にお客様を引き込むために、まずは“人探し”という設定でわくわくはらはらしていただき、次にこのマルチマンという、演劇的な存在を楽しんでいただこうと考えました。観客には同一人物だと分かっている俳優が、いろいろな役を演じ分けるというのは、演劇ではよくある手法ですよね。私はミュージカルだけでなくストレートプレイも手掛けていますので、ミュージカルにちょっと演劇的な“色”をまぶしてみようと思ったんです。もっとも、本作を書いたのは学生時代で、当時はお金もなかったので、出来るだけ人件費を安く……という事情もありました(笑)。その後、いろいろな韓国ミュージカルで“マルチマン”という役が登場するようになりましたが、その起源は本作なんです」
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