日米共に長期金利の上昇でREITは調整
長期金利の上昇でREITは調整
J-REIT(不動産投資信託)は、投資家から集めた資金に銀行借入れなどを加えて運用(物件を取得)を行います。このため金利の上昇は借り入れ金利の上昇につながり、REITの収益を減らす要因になる、結果としてREITが売られることになります。長期金利が急騰した2013年5月には、REITだけではなく、株式も大きく売られたのは記憶に新しいところです。わが国だけではなく、米国も金融緩和の縮小を見越して長期金利が夏場急騰、連れて米国REIT市場も調整を余儀なくされたのです。
短期的とはいえ、長期金利の上昇はREIT市場にマイナスに働くことが示されたわけですが、わが国の長期金利の上昇は景気の回復を伴った中・長期の金利の上昇と予測されています。何%まで上昇するかは定かではありませんが、わが国では2013年5月、米国では夏場にかけての金利の上昇とは趣が異なるようです。
中・長期の金利上昇という観点では、2003年から2007年にかけての景気回復を背景とした局面が参考になると考えられますので見てみましょう。
前回の金利上昇局面ではREITは下落していない
図は、わが国の長期金利と東証REIT指数をグラフ化したものです。2003年4月1日の終値を100として、毎月第1営業日の終値がいくつになっているのかを示したものです。長期金利と東証REIT指数をグラフ化
2013年4月の0.315%を付けるまで、長期金利は2003年6月の0.43%が史上最低でした。図を見ると、当初は長期金利が低下していることが読み取れますが、一転して長期金利は急騰。2003年9月には4月1日の2倍以上、一番低下した同年6月からは約2.5倍近くまで急騰しているのですが、東証REIT指数はほとんど落ち込んでいません。
その後、長期金利は上昇、低下を繰り返しながらも時間軸を長くしてみれば、右肩上がりの上昇トレンドを描き、低下に転じていることがわかります。長期金利は最大で基準日(2003年4月1日)の2.8倍近くまで上昇しましたが、東証REIT指数は長期金利の上昇をマイナス要因とすることなく、2007年の半ばまで一貫して上昇トレンドを描いていることがわかります。
本来であれば、長期金利の上昇によって借り入れ金利の上昇=収益の悪化、REITの価格は下落となるはずですが、ほとんど下落していません。
金利よりも景況観や不動産市況の影響大
REITが上場してから、景気回復を伴った長期金利の上昇は図に示した期間の1度だけしかありません。1度だけで判断を下すのは危ういのですが、長期金利の上昇がREIT価格にとってマイナス要因にならなかった背景を考察します。図に示した期間は、「実感無き景気回復」と揶揄(やゆ)されたものの、戦後最長となる景気拡張局面でした。実感無きというのは、マクロ的にはGDP(国内総生産)が20兆円強しか増加していない。ミクロ的には大多数の人の収入が増えなかったことがあげられます。
とはいえ、景気は拡張していたうえ、世界から投資資金が流れ込んでいたことからわが国の不動産市況はミニバブル的な様相を呈していたことを見逃せません。当時も低金利局面であったことから、運用難による機関投資家が、大挙してREIT市場に流れた時期でもありました。
REIT市場が過熱(バブル)していたようですが、景気が拡張していたことからオフィスビルの空室率が低下していたことは見逃せません。つまり、長期金利が上昇してもその上昇を上回る景気の拡張、投資資金の流入があれば、REIT市場にとって長期金利の上昇は大きなマイナスとはならないといえるかもしれません。
足元、アベノミクスによる政策効果により景気回復基調を鮮明にし、また東京五輪招致により不動産市況の活性が続くと期待されております。日本銀行の異次元緩和がうまく機能すれば、懸念される長期金利の急騰は起こりにくく、景気回復を背景とした緩やかな上昇となる可能性が高そうです。
相対的に高めの分配金を受取りながら、中・長期でREITの上昇を待つ投資スタンスであれば、長期金利の上昇をあまり気にする必要はないと思われてなりません。