アートな感性の切手女子
切手女子の中には、プロとしてアートに携わる方がたくさんいらっしゃるのも特徴です。切手女子を広い意味でとらえれば、著名なイラストレーターである木下綾乃さんもその1人と言えるでしょう。彼女は切手や手紙に関するいくつかの著作を出していますが、気取らない自然体の文章に、かわいらしいイラストがよくマッチしていて、切手収集を集め始めた頃のウキウキした気持ちが上手に表現されていますし、難しいことは抜きにして、1枚100円までの切手とルールを決めて、無理なく自然に切手を楽しむ感覚など、広く共感できる部分が多いと思います。木下さんは著作の多い方なのですが、中でも筆者のおすすめは上に示している『手紙を書きたくなったら』(WAVE出版、2005年)です。同書の中で、うさぎのミッフィーの作者ディック・ブルーナとアポを取り、実際にオランダにあるアトリエに会いに行ったエピソードについて綴っています。ブルーナはオランダでも日本でも人気の高い切手デザイナーでもあるのです。こうした木下さんの行動力には脱帽です。
他に公益財団法人日本郵趣協会のパソコン郵趣部会で活躍されている澤口尚子さんや、木戸しづ子さんなども切手や郵便を題材にしたイラストをたくさん手掛けています。切手や手紙の持つ季節感や、人と人を結ぶイメージが創作に結びつくのでしょう。
レトロな切手デザインを味わい尽くす
切手女子のとりわけ好む切手たちがいくつかありますが、その代表格として1950年代から1970年代くらいまでの東欧の切手があります。旧共産圏の国々の切手ですから、今見るとナンセンスなプロパガンダ切手もありますが、簡素な印刷のため、絵本のように素朴な味わいがあるのです。しかも1枚10円から30円で気軽に買うことができ、切手女子にとっても気軽に楽しめる対象です。 加藤郁美さんの『切手帖とピンセット』(国書刊行会、初版2010年)は、まさにこの点をセンス良くデザイン本に仕立てた好著です。美術館で見るような芸術作品ではなく、日常生活の中に溶け込んだ消費財として東欧の切手アートを見る試みとなっていて、見る人の目を楽しませてくれます。装丁にもこだわっていますので、ぜひ本棚のすぐ手にとれる位置に置いて、折に触れて楽しみたい本です。次のページでは切手女子のさまざまな活動について紹介したいと思います。