チーズ/季節・シーン別おすすめチーズ

ウォッシュチーズの最高峰「エポワス」とは

数あるウォッシュチーズの中でも別格な存在の「エポワス」。濃厚で繊細、気品のある味わいは、同郷のフランス・ブルゴーニュ地方の超高級ワインと合わせても引けを取りません。強い香りを放つ表皮でありながら、その内層はまろやかでなめらか。意外にも食べやすい美味なるチーズです。

小笠原 由貴

執筆者:小笠原 由貴

チーズガイド

ブルゴーニュ地方のチーズ「エポワス」

秋の空気が肌寒く感じられるようになると食べたくなるのが、濃厚なウォッシュチーズ。その代表格であり、際立った存在感を放っているのが「エポワス」。「エポワス・ド・ブルゴーニュ(Époisses de Bourgogne)」と呼ばれることもある通り、ワインで有名な、フランス・ブルゴーニュ地方のチーズです。

今でこそ確固たる地位を築き名声を馳せてはいますが、一度は消滅の危機に瀕した事も。美食家ブリア・サヴァランには「チーズの王」と讃えられ、また、ナポレオンにも愛されたこのチーズについてご紹介します。
エポワス・ド・ブルゴーニュ

エポワス・ド・ブルゴーニュ


エポワスの基本データ

  • 名称:エポワス(Epoissses)
  • タイプ:ウォッシュタイプ
  • 原産地:フランス・ブルゴーニュ地方(コート・ドール、ヨンヌ、オート・マルヌ各県の一部の村落)。
  • 原料乳:牛乳(全乳)
  • 熟成期間:最低4週間
  • 固形分中脂肪分:最低50%
  • 出荷時の大きさ・形:直径9.5~11.5cm、高さ3~4cm、重さ250~350gの円形。他に、「エポワス・クープ」と呼ばれる直径16.5~19cm、高さ3~4.5cm、重さ700g~1100gの大型のものも
  • :1年中。特に秋~冬が美味しく感じられる
  • AOC(原産地呼称統制)取得年:1991年

エポワスはどんなチーズ?名前の由来は?

丸い木箱に入った、オレンジ色に輝くウォッシュチーズ。表面を洗いながら熟成させるため、表皮はしっとり、またはつやつやとしています。ベージュがかった内層は、熟成によってむっちりからトロトロへと変化していきます。ウォッシュタイプらしく臭いは強めですが、口にした時の味わいは濃厚で上品。初めて食べた時の感動は、忘れられません。

「エポワス(Epoisses)」とは、このチーズが作られている村の名前。有名なワイン産地ブルゴーニュの中心、コート・ドールに位置しています。

エポワスチーズの製法

レンネット(凝乳酵素)ではなく、乳酸菌で乳を凝固させる珍しい製法のウォッシュ。30℃ほどに温めたミルクを凝固後、型に入れて約48時間をかけて水切りします。型から出して乾塩で塩づけし、東北からの風が通り抜ける部屋で乾燥。乾燥後の熟成では、2~3日おきに塩水や水とマール・ド・ブルゴーニュ(ブルゴーニュワインの製造時にできるぶどうの搾りかすで作る蒸留酒)を混ぜたもので表面を洗います。マールの濃度は薄いものから始め、回数を追うごとに濃度を増し、最終的にはマール100%で洗わなければなりません。

こうして手間をかけつつ、4週間以上の熟成を経て出荷されます。なお、表皮を洗いつつ熟成させるうちにチーズは鮮やかなオレンジ色に色づいていきますが、これは人工的に着色したものではなく、自然に存在するリネンス菌の働きによるものです。

エポワスの食べ方・ワインとのマリアージュ

柔らかくトロトロに熟成したものは、そのままスプーンですくってバゲット等に塗ってワインとともに。やや若いものは、カットしてそのままいただくのもおすすめ。

ワインを合わせるなら、やはり同郷のブルゴーニュワインが最適。贅沢なマリアージュとしては、熟成の若いエポワスならコート・ド・ボーヌ(Côte de Beaune)の辛口白ワインでも好相性。熟成の進んだものならコート・ド・ニュイ(Côte de Nuits)やコート・ド・ボーヌの赤、特にジュヴレ・シャンベルタン(Gevrey-Chambertin)との組み合わせは、一度は試してみたい憧れのマリアージュです(この組み合わせは、皇帝ナポレオンも愛したそう)。

より購入しやすいワインでは、一般的なブルゴーニュ赤はもちろん、コート・デュ・ローヌ等はいかがでしょう? いずれにしても、ボディに厚みのあるエレガントなワインがおすすめです。

エポワスの歴史

伝承によると、シトー派の大きな修道院があったエポワス村で、16世紀初めにはすでにこのチーズが作られていました。そして修道士たちがこの地を去る時に農家の人々に製法を伝え、その後、改良が繰り返されて多くの農家が生産するように。しかし、2度の世界大戦の影響で作り手が居なくなり、絶滅の危機に瀕します。その状況を憂いた小さな農家のベルトー(Berthaut)夫妻がエポワスの復活のために立ち上がります。夫妻は、昔ながらの製法を知る農婦たちから学んで見事にエポワスの復活に成功。現在の主なエポワスの生産者、ベルトー社となりました。今日、エポワスを楽しめるのは、ベルトー氏のお陰といっても過言ではありません。

一度食べたら忘れられない味わいのエポワス。少々お値段が張るのは、上質な素材を使い伝統的な製法で手間暇かけているので仕方がないのかもしれません。

美味しいワインを開ける時、嬉しい事があった時、幸せな気分になりたい時、お祝いしたい時……、エポワスは、そんな時にぜひおすすめしたいちょっと贅沢なチーズです。

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