ドイツ語の「ねこばば」は?
まずは身近な動物である、犬・猫から。Hund(フント/犬)はドイツ語圏でも最も親しまれているペットですが……。
hundsgemein(フンツゲマイン/犬のように卑しい) → 「卑劣な」
Hundeleben (フンデレーベン/犬の生) → 「惨めな生活」
Hundesohn(フンデゾーン/犬の息子) → 「卑劣漢」
といった風に、残念ながら一般には、惨めさ、卑しさ等を表す転用表現となっています。ちなみに映画名にもなったHundstage(フンツターゲ/犬の日々)とは7月から8月にかけての真夏日のことですが、こちらは星座のおおいぬ座との関係からとられたもの。
リアル猫はむしろ辛党かと
子が可愛くないのよ ドイツのカラスはね
Vogel(フォーゲル/鳥)もよく人をちゃかした表現に用いられます。Pechvogel(ペッヒフォーゲル/不運な鳥)で「運の悪い奴」、Spaßvogel(シュパースフォーゲル/おふざけ鳥)で「ひょうきん者」。野外活動として日本語にも取り入れられているWandervogel(ヴァンダーフォーゲル/渡り鳥)には、「放浪者」の意もあります。その他、鳥に模す喩えでは、
Rabenvater(ラーベンファーター/カラスの父親) → 「愛情のない父親」
Schmutzfink(シュムッツフィンク/汚れアトリ) → 「不潔な奴」
Nachteule(ナハトオイレ/夜のフクロウ) → 「夜遊び好き」
Spinatwachtel(シュピナートヴァハテル/ほうれん草ウズラ) → 「おかしな女」
Schluckspecht(シュルックシュペヒト/一杯キツツキ) → 「飲兵衛」
Spottdrossel(シュポットドロッセル/嘲笑ツグミ) → 「ひやかし屋」
あと比較的新しい造語ではMauerspecht(マウアーシュペヒト/壁キツツキ)。1989年のベルリンの壁崩壊後、壁を壊して破片を主にみやげ物屋用に持ち去る輩を揶揄した表現です。
鬼とドラゴン、どっちが怖い?
その他の動物も用いた表現も見てみましょう。Angsthase(アングストハーゼ/不安ウサギ) → 「臆病者」
Streithammel(シュトライトハメル/けんか雄羊) → 「けんかっぱやい奴」
Brillenschlange(ブリレンシュランゲ/メガネヘビ) → 「めがねをかけた奴」
Kredithai(クレディートハイ/クレジット鮫) → 「高利貸し」
Partylöwe(パーティレーヴェ/パーティライオン) → 「社交界の帝王」
Klammeraffe(クラマーアッフェ/クモザル) → 「アットマーク(@)」
Eselsbrücke(エーゼルスブリュッケ/ロバの橋) → 「記憶のためのヒント」
Hamsterkauf(ハムスターカオフ/ハムスター買い) → 「買占め」
Brillenschlange(メガネヘビ)とは元々は、メガネ状の文様がついたコブラ等の蛇のこと。日本語だと「メガネザル」に当たる揶揄表現でしょうか。また、Schlange(蛇)は日本語の「長蛇の列」同様、長々とした連なりをも意味し、Autoschlange(アオトーシュランゲ/車蛇)とは車の渋滞のこと。
Bei der Autoschlange ist das Arschloch vorn.
(車蛇にはケツの穴が前にある。)
車蛇(長蛇の列を成す渋滞)では、Arschloch(アーシュロッホ/ケツの穴)、つまり「クソ野郎」は先頭の奴だ。なんて冗談も飛ばされるわけです。
実はあまり可愛くない、ハムスター買い
その他、想像上の動物ですがDrache(ドラッヘ/竜)も挙げておきましょう。Hausdrachen(ハオスドラッヘン/うちのドラゴン)といえば、「口やかましい女房」の意。日本語でも「鬼婆」などと称しますが…。そしてDrachenfutter(ドラッヘンフッター/ドラゴンのえさ)とは、朝帰りの亭主が奥さんをなだめるための土産を指します。
動物を用いた語彙。イメージと諧謔味に富み国民性も表れていて、面白いと思いませんか? ただし皮肉や揶揄を含んだ表現が多いため、使いどころには重々ご注意を。