インド仏教美術の至宝、アジャンターの壁画
第2窟の回廊。天井や壁は壁画で覆われている。左はロータス(蓮)彫刻。悟りを開いたブッダが歩くと、その足跡には蓮華が咲き乱れたという ©牧哲雄
蓮華手菩薩 ©牧哲雄
グプタ美術の最高峰といわれるのが第1窟だ。剥落している部分もずいぶんあるが、壁や天井は壁画で覆われており、さながら地下宮殿のよう。仏画で囲まれたその空間は中国の世界遺産「莫高窟」の石窟寺院や日本の「法隆寺地域の仏教建造物」の法隆寺金堂壁画を思い起こさせる。実際これらの世界遺産はアジャンターの影響を大きく受けている。
金剛手菩薩 ©牧哲雄
第2窟も同様に壁画・彫刻で覆われているが、第1窟より新しく、壁画はより肉感的に、彫刻はより精緻にダイナミックに展開する。ブッダや弥勒菩薩の他にブラフマーやインドラも描かれており、ヒンドゥー教の影響を見ることができる。
このように、前期の石窟群はストゥーパを中心としたシンプルな空間であるのに対し、後期のものは壁画や彫刻・仏像で彩られたマンダラのような造り。石窟という暗い空間に広がる天界の姿がこの世のものとは思われない不思議な空気をかもし出している。
世界遺産「アジャンター石窟群」の見所
第26窟の精緻な彫刻。ヒンドゥー教やジャイナ教の神々やデザインも取り込まれており、次第に融合していく様子が見て取れる ©牧哲雄
なお、石窟には僧たちが生活を行うための僧院=ヴィハーラ窟と、ストゥーパや仏像を設置して礼拝を行う寺院=チャイティア窟の二種類がある。アジャンターではほとんどがヴィハーラ窟で、チャイティア窟は5つしかない。といっても後期のものになるとヴィハーラ窟にもストゥーパや仏像が祀られている。
■第1・2窟
第1窟のファサード。この奥に広間があり、広間の周囲に多数の僧房が並べられている。ヴィハーラ窟はこのように広間と僧房から成る ©牧哲雄
■第6・7窟
後期ヴィハーラ窟で、数多くの仏像が残っている。第6窟は2階建てで、ワゴーラ渓谷を一望できる。ヴィハーラ窟では広間を中庭に見立ててその周囲に僧房を配置するものだが、第7窟にはその広間がない。
■第9・10窟
前期チャイティア窟。ストゥーパと列柱を中心としたシンプルながらミステリアスな空間。壁画も描かれているが、これらは後期に付け足されたものだ。第10窟の柱にはジョン・スミスが自分の名前と日付を記した落書きがある。
■第16・17窟
第16窟の入口に設置されたエレファント・ゲート。左右にゾウの石像が置かれている ©牧哲雄
■第19・26窟
後期チャイティア窟。ファサード(正面)や内部は多くの仏像で装飾されており、内部には仏像を伴ったストゥーパが鎮座している。5~7世紀に造られたと見られるが、第19窟の方が時代的に古い。第26窟はアジャンターの集大成で、もっとも新しくダイナミックな装飾は他のどの石窟よりも迫力がある。内部にはアジャンター最大の涅槃仏がある。