3年掛かりで仕上げた「グッドナイト・サイゴン」も収録

■アルバム名
ナイロン・カーテン

■アーティスト名
ビリー・ジョエル

■おすすめ理由
ビリー・ジョエルが1982年に発表し、スタジオ・アルバムとしては8作目、全米アルバムチャートで7位を記録しました。
彼自身にとっては、ビートルズの「サージェント・ペパーズ~」に位置するアルバムであり、とても誇りにしているそうです。
確かに「ローラ」「スカンジナヴィアン・スカイ」と云った楽曲の印象は、殆どジョンやポールの旋律に程近いメロディ、アレンジを感じさせ、明らかに意識した上での作品なのでしょう。

この当時、オートバイによる思わぬ不慮の事故に遭い、入院先のベッドを仕切るカーテンがナイロン製で、そこからアルバム名が閃きました。
何かを一新したく遮ったつもりが、どこかで「こだわり」を未だ求めていたりするもの……。
暖簾に腕押し程度な曖昧さに潜んだ何か、それがナイロンという生地の微妙な例えに思えます。

一番印象的なのは「グッドナイト・サイゴン」という曲で、ベトナム戦争の断末魔を唄っています。
ビリー本人はこの戦争の徴兵から意図的に逃れたらしく、その辺の心境を自覚するからこその作品との事、実際の経験ではなくとも、的確な客観視と豊かなイメージ力で、ここまで主観的に持っていってしまう、彼の才気溢れる傑作です。

戦争はよくない!……そんなことは分かってる。
誰が間違っていて、誰が正しいか?
そんなこと、闘いの最中には何の役にも立たない、
関係のない思考だ!
向かって来る敵を撃つしか術が無いのだ。

サビのフレーズではそのようなことを語ります。
実際の現場に立てば、生き死にがリアルに関わり、大義名分やスローガン、あるいは紙に書いた願い事など、忘れて向き合うしかないのだということを切実に訴えています。
ケネディも、ブッシュも、マザー・テレサだって、ローザ・パークスですら、最前線には現れないし、ましてや松下幸之助や坂本龍馬など単なる過去の遺産でしかない、生き残るかどうかは、自分の中にあるということです。
闘う兵士の目線とその後遺症を綴った、およそ3年掛かりで仕上げた反戦歌です。

その他にも、不況にあえぐ町の人々の微かな希望を讃える「アレンタウン」や、大人になるってことを随分遠まわしに言いつつも最大ヒットに繋がった曲「プレッシャー」など収録された、実に骨太で思慮深い魅力に溢れたアルバムです。



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