北野監督のスポーツを題材とした異色作
『あの夏、いちばん静かな海。』
■監督北野武
■主演
真木蔵人、大島弘子
■DVD発売元
バンダイビジュアル
■あらすじ
聴覚障害を持つ青年・茂はゴミ収集車助手のアルバイトをしている。ある時茂は仕事中に壊れたサーフボードを拾う。
修理したボードで茂はサーフィンにのめり込んでいく。同じく聴覚障害者で恋人の貴子はそんな茂をいつも砂浜に座って見守っていた。
やがてサーファーの仲間もでき、腕を上げていく茂だったが、仕事も貴子のこともなおざりになってしまう。貴子の涙に自分を取り戻した茂はサーフィンを趣味として楽しむようになり、同時に大会での入賞も果たす。
夏も終わりかけたある日、帰りの遅い茂を迎えに浜辺へ行った貴子は……。
■おすすめの理由
北野監督は90年代、スポーツを題材とした異色作を3本撮っています。『3-4x10月』『キッズ・リターン』と本作です。
それぞれ草野球、ボクシング、サーフィンを扱い、いずれも個性的な傑作ですが、今回は個人的にこの中で最も好きな本作をご紹介させていただきたいと思います。
作品最大の魅力は本作が何を描こうとしているのか、読み解く面白さにあります。本作はスポーツ、恋愛、青春の要素を含む作品ですが、どの側面から見ても王道からは外れた印象を受けます。
スポーツを通じた勝利、人間的成長、スポ根ドラマ、友情ではありませんし、恋愛にしてはラブシーンは一切なく、貴子が茂を遠目に見守るのが基本描写です。青春ものの、成長・冒険譚というのも違います。
私が直感的に感じたのは、本作、実は(芸術的)実験映画と考えればうまく解釈できるのでは?というものです。
タイトルの夏を人生が輝く時期、静かを静寂で無駄を省いた美しさ、海を世界と読み換えれば、私達だれもが人生の中で巡り合う黄金期、そこに見える最も美しい世界、となります。
正にその世界を映画で表現するために、逆に作品を構築したと考えれば人物設定、世界観の説明が付きます。
これは北野監督のインタビューで、あらゆる無駄を削ぎ落とし写真の様な美しさを表現したい、と述べていたこと、静寂を際立たせるために逆に美しく饒舌な音楽で心理描写が表現されることからもそう考えられます。
また哀しくも美しいラストシーンはその輝きが永遠になったことを意味するのではないでしょうか?