Stephen Schwartz 48年NY生まれ。高校時代にジュリアード音楽院でピアノと作曲を学び、カーネギー・メロン大学では演劇を専攻。71年に『ゴッドスペル』、72年に『ピピン』を発表し、一躍ブロードウェイの寵児に。映画界でも活躍し、ディズニー映画では作曲家アラン・メンケンと『ノートルダムの鐘』『魔法に掛けられて』等でコラボレートしている。(C) Marino Matsushima

Stephen Schwartz 48年NY生まれ。高校時代にジュリアード音楽院でピアノと作曲を学び、カーネギー・メロン大学では演劇を専攻。71年に『ゴッドスペル』、72年に『ピピン』を発表し、一躍ブロードウェイの寵児に。映画界でも活躍し、ディズニー映画では作曲家アラン・メンケンと『ノートルダムの鐘』『魔法に掛けられて』等でコラボレートしている。(C) Marino Matsushima

『オズの魔法使い』に登場する魔女エルファバが“西の悪い魔女”と呼ばれるようになった背景には、驚愕の真実が隠されていた……。

こんな仮定で、名作物語の前日譚を“異なる角度から”描きだし、95年に刊行されるやベストセラーとなった、グレゴリー・マグワイアの小説『オズの魔女記』。この作品に惚れ込み、ミュージカル『ウィキッド』として舞台化したのが、ブロードウェイ、そしてアニメミュージカル界の大御所作詞・作曲家、スティーヴン・シュワルツです。
 
『ウィキッド』中央がグリンダ、エルファバundefined撮影:荒井健

『ウィキッド』中央がグリンダ、エルファバ 撮影:荒井健

その彼が先日来日し、初めて劇団四季版『ウィキッド』を観劇。翌日、共同インタビューに応じました。そのカジュアルな服装同様、飾らず、ユーモアを交えながらも何でも率直に語る彼ですが、言葉の端々からは“信念のひと”であることがうかがえます。

様々なトピックの中から、今回は主に日本版の感想や作品に込めたメッセージ、そして最近のブロードウェイ観についての、彼のコメントをご紹介します。
 

日本版のアンサンブルは世界一

――劇団四季版をご覧になった感想をお聞かせください。

「とても楽しめました。主役クラスの俳優たちももちろん良かったけれど、アンサンブル、そして照明などの技術スタッフは世界各国の『ウィキッド』と比べても、極めて優れていますね。歌はどの国の『ウィキッド』を観ても、作曲家としてどこかしら『もうちょっとうまく歌ってくれればいいのに』と思う部分があるのですが、四季版はスコア通り歌えている。

特にコーラスが生なのにもかかわらず、キャストレコーディングCDよりいいんじゃないかというくらいうまい。ダンスも正確で、揃っていなければならない部分はきちんと揃っているし、各々の個性を見せるところも、それぞれに表現ができています。
 
『ウィキッド』撮影:上原タカシ

『ウィキッド』撮影:上原タカシ

一つ、具体的な例をあげましょうか。序盤、主人公のエルファバが大学に入学するシーンでは、学生たちが『ディア・オールド・シズ』という校歌的なナンバーを歌いながら舞台に出てきます。これは4声の合唱で、俳優たちは自分の出のタイミングに関わらず、最初から歌っていなくてはいけないのに、海外の『ウィキッド』ではどこも、ばらばらと舞台に上がってきてからしか歌っていない。

声を出していない俳優はいったい何をしているのかと聞くと、彼らは『私は(袖で)衣装替えをしているから』とか『私の位置からは(オーケストラピットの)指揮者が見えないから』といろいろと言い訳をして、これが私にはとても憂鬱だったんです。

でも、昨晩の日本版の『ウィキッド』では、このシーンで最初から全員のコーラスが聞こました。中にはきっと衣装替えの途中だった俳優もいたことでしょうけれど、それでもちゃんと歌っていたんですよ!」
 

『ウィキッド』を観た人々は、政治家の嘘を見抜くことができるかもしれない

――『ウィキッド』は女の子の友情物語であると同時に、非常にポリティカルな内容ですよね。エルファバは(緑という)肌の色で差別を受けますし、後に“善い魔女”と呼ばれるグリンダとの友情を“人々を連帯させるには敵を作り上げろ”という大人たちの陰謀によって引き裂かれ、“悪”に仕立て上げられてしまう。なぜ、こういう物語があなたの心をとらえたのでしょうか?(質問・松島)
『ウィキッド』エルファバとグリンダundefined撮影:荒井健

『ウィキッド』エルファバとグリンダ 撮影:荒井健

「仰る通り、私は政治に関心を持っています。ただ、こういう場で政治について語ることはしません。私の政治的意見に同意するかどうか、と言う観点でお客様に作品を観ていただきたくはないので。

しかし、私は実際に世の中で起きている事象に非常に影響を受けています。さきほど引用された“人々が連帯するには敵を作り上げればいい”という台詞は、私もとても気に入っていまして、最初にこれを思いついたのは私だったか脚本家のウィニー・ホルツマンだったかは覚えていませんが、世界の政治的指導者たちは常にこういう手法を使うものです。

『ウィキッド』が発表されたのは2003年。当時はロシアのプーチンが新聞をにぎわしていましたが、その(強権的な)やり方を思い起こせば、私が何を言っているかはよくお分かりかと思います。

残念なことに、当時と今とで世の中の状況は変わっていません。もちろんミュージカルと言うのはエンタテインメントであって、世界を変えるものでもありません。でも、このメディアを通して人々は“こういうことが起こっているのだ”と認識することはできると思います。

もし次の機会に政治家が嘘をついたり、自分が権力を握るために誰かを悪魔に仕立て上げようとしても、この作品を観た人なら騙されにくくなるかもしれない、と私は思うのです。このことを聞いてくださり、ありがとう」

――以前、本作のプロデューサー、マーク・プラットさんにインタビューした際に、彼は9.11に作品が影響を受けたとおっしゃっていました。実際には同時多発テロが起きた時点では既に本作の歌詞や脚本はほとんど出来上がっていたと思われますが、どのような影響を受けたのでしょうか?(質問・松島)
 
『ウィキッド』撮影:荒井健

『ウィキッド』撮影:荒井健

「おっしゃる通り同時多発テロが起きた時、大部分は既に出来上がっていましたが、細かい部分はまだ書いている途中でしたので、影響は受けました。

9.11そのものより、その後のイラク戦争のほうに影響を受けましたね。当時は指導者たちが嘘をついていて、それはかなり明白であったにもかかわらず、多くの人々が真に受けていた。“人々が団結するには~”の台詞は、まさしくこの時に生まれたものなんです」
 


ブロードウェイは大きく変わった

――シュワルツさんは71年の『ゴッドスペル』以来、長年にわたってブロードウェイで活躍されていますが、近年のブロードウェイをどうご覧になっていますか?
 
ーヴン・シュワルツさん(C) Marino Matsushima

スティーヴン・シュワルツさん(C) Marino Matsushima

「ブロードウェイは大きく変わってきたと思います。経済的に、より莫大な費用が必要になってきたため、プロデューサーが冒険をしたがらなくなってきた。もし今だったら、(72年に私が書いた)『ピピン』のような作品は製作されなかったでしょうね。伝統的なミュージカルのテーマからはかけ離れているし、作曲家は有名でないし(笑)、出演者にスターもいない。

スターは今ではとても重要だし、有名な映画が原作だったり、『ジャージー・ボーイズ』のように聞きなれた音楽を使うジュークボックス・ミュージカルも手堅い手法です。でも、たまにそういう流れにくみしない作品も現れますよ。

数年前にオフブロードウェイ経由で開幕した『next to normal』は、とても変わったテーマでスターも出演していませんでした。

ただ、私自身は幸い、ヒット作があるおかげで、自分のスタイルを変えることなく、創作活動を行い続けることができています。私のスタイルとは、自分が本当に興味のあるストーリーをミュージカル化すること。これに尽きます。

もう一つ、映画会社の参入もブロードウェイの顕著な傾向です。まずはディズニーが自社アニメのミュージカル版を発表し、これが大成功を収めた。そして『ウィキッド』のユニバーサルです。映画会社がミュージカルを作るのは、映画1本を作るのと比べれば昼ごはん代のようなもの。まあ、それは大げさですが(笑)。

それでいて、成功すれば巨額の利益をあげることができる。今後も映画会社のミュージカル進出はとどまることを知らないと思いますよ」

――ちなみに、『ウィキッド』映画化のプロジェクトはありますか?

「『ウィキッド』を製作しているユニバーサルは映画会社ですし、当初は映画版を作るつもりだったようですが、今のところ、そういうプロジェクトは存在しません。いつかは作られるだろうとは思いますけれど。

――シュワルツさんは今、どんな新作をあたためていらっしゃいますか?

「いくつかあります。一つは、ニューヨークで上演するかどうかはわかりませんが、(19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した)マジシャン、フーディーニの物語をミュージカルしたもの。もう一つ、これはウィーンでドイツ語で上演される予定ですが、モーツァルトの『魔笛』に関わる劇場主カップルのラブストーリーの企画があります。どちらも、外から“こんな話はどうだろう”と持ち込まれたストーリーに私が興味を持ち、出発したプロジェクトです」

『ウィキッド』は、見た目も性格も正反対の主人公たちが、友情をはぐくみ、そして別れてゆく過程をじっくりと描きつつ、世の中の不正を“風刺”というより“怒り”をこめて真正面から描き出した作品。10代から熟年まで、幅広い層に人気のこの作品の芯にあるのは、ミュージカルを通して人々の心に何かを刻もうとする、シュワルツさんの強い願いであるようです。以上2013年9月取材・文)

*2018年秋・スティーヴン・シュワルツ最新情報*シュワルツがプロデュースをつとめた最新舞台『ザ・シークレット・シルク』が2018年秋より、日本近郊を航行中の豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号(プリンセス・クルーズ社)にて限定上演中です。シュワルツの会見や観劇レポート記事(舞台写真多数)をこちらの記事で掲載!ぜひご覧下さい。
 



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