若い建主の多い北陸地方
SUKENO(富山)の提案する自然エネルギー利用住宅。内と外のつながりを大切にしたリビングは、デッキと室内を大型のサッシで仕切り一体感を持たせています。屋根を設けたデッキで食事を楽しんだり、日向ぼっこをしたり「もう一つの居室」として生活を愉しめます。階段空間を大きな吹き抜けにすることで、1階の暖気を2階へ導き、全体の温度差を感じにくくしています。
また冠婚葬祭を自宅で行い、来客をもてなすため数十畳の大広間や、輪島塗の漆器などを数十人分揃える必要がありました(立派な「土蔵」は食器を保管するためにも必要)。一家族が10人を超えることが当たり前だった時代は、冠婚葬祭や地域の寄り合いが自宅で頻繁に行われていました。
こうした地域文化は、今の住宅にも色濃く反映されています。農家では長男が家を継ぐのが基本で、次男、三男は家を出ることになるため、結婚を機に宅地を与える習慣があります。また昔から北陸の女性は働き者といわれ、現在も「共働き率」は全国トップです。農家は全員労働が当たり前で、戦後も専業主婦という考え方は根付かなかったといわれています。
土地代が不要で共働きとなれば、家賃感覚で一戸建てを建てる方も多くなります。ポイントは都市部よりも若い20代後半~30代前半の建主が多いことで、デザイン性や環境意識の高い住宅が求められているのです。
切妻屋根の外観は落ち着いた和のスタイルで、富山の町並みとの協調をはかっています。外構の緑も通りに潤いを与えます。
この家も「生活空間の快適性・デザイン性」を最優先のテーマとして、内部と外部のつながり考えながら、自然エネルギーの有効活用を重視しています。
「あったかい」よりも「寒くない」が大切
季節ごとの風向きデータを元に、温かい風、冷たい風の流れをシミュレーション。それにもとづいて窓の取り付け位置や大きさを設計しています。
こうした環境で快適性を保つには、2つの考え方があると思います。ひとつは高断熱・高気密の構造にして、空気の出入りを人工的な換気システムでコントロールすることです。外界との関係は疎遠になるものの、省エネで気温を調整しやすくなります。もうひとつは、高気密・高断熱性能を持たせながらも、外界とのつながりを大切にして、自然エネルギーを有効利用する方法です。SUKENOが採用したのは後者でした。
自然エネルギーというと、太陽光発電や風力発電などを思い描きがちですが、さわやかな風や太陽光の自然な暖かさも自然エネルギーのひとつです。この実例では、季節ごとに変わる風の流れをシミュレーションして、適切な大きさの窓を取り付けています。
風をとり入れるためには窓の大きさよりも取り付ける位置や窓の開閉方法が重要で、適度に自然な風を通すことは、カビや結露の発生をおさえ家を長持ちさせます。もちろん夏場のエアコン使用量を減らし、省エネや電力消費のピークカットに貢献します。
リビング横のダイニングキッチンは、ムクの木や自然素材を多用した落ち着いた空間。天井を少し低くすることで、リビング空間とのコントラストを高めています。ダウンライトは光源が直接目に入るためになるべく使わず、やわらかな間接光やベンダントライト、フロアライトによって照明しています。
ヒートショックは、リビングはTシャツ1枚で過ごせる一方、廊下は氷点下ということの多い寒冷地の住宅で起こりやすく、トイレや風呂、寝室での脳卒中、心筋梗塞などの事故につながります。最近はこうした住環境を改め、全体を「暑くもなく、寒くもない」空間にすることが大切といわれています。
気温と体感的な暑さ・寒さは必ずしも一致するとは限りません。気温が10度Cを切るなかでも日の当たる縁側(風のない)は暖かく感じますし、27度Cのエアコンの入ったオフィスで冷えを感じることもあります。特に瞬間的な温度変化は体力を消耗し「暑い」「寒い」を感じさせ、風邪の要因にもなります。また一室だけの温度を上げ過ぎると、外気や隣室との温度差が大きくなり、結露も起こりやすくなります。
次ページで、デッキは「もう一つのリビング」に生まれ変わる!