絵本/絵本関連情報

没後80年 絵本で読む宮沢賢治の世界(4ページ目)

2013年は、宮沢賢治没後80年にあたります。この節目の年に、あらためて宮沢賢治の童話等を原作とする絵本を振り返ってみましょう。絵本という視覚化された表現を通して、これまで気付かなかった賢治の魅力を再発見できるかもしれません。

執筆者:大橋 悦子

小林敏也が描く『雨ニモマケズ』と『銀河鉄道の夜』

絵本になった宮沢賢治の童話についてお話する時、忘れてはならない人物がいます。それは、宮沢賢治の絵本を数多く手がけ、「画本(えほん)宮澤賢治シリーズ」の制作をライフワークとしている小林敏也さんです。小林敏也さんは、賢治作品の絵本化に独自の技法で持続的に取り組み、子ども読者の心をつかんだ功績により、2003年に絵本作家としてはただ1人、花巻市の宮沢賢治学会イーハトーブセンターが選ぶ宮沢賢治賞を受賞(※)しています。

そこで、小林敏也さんの「画本宮澤賢治シリーズ」から、賢治の代表作といえる2つの作品をご紹介します。

■雨ニモマケズ 小林敏也

小林敏也さんの『雨ニモマケズ』は、有名な賢治の詩をイメージ豊かに表現した版画絵本です。その絵本の表紙には、なぜか黒い手帳が描かれています。ご存知の通り、『雨ニモマケズ』という詩の中には、手帳もノートも登場しません。それではなぜ、絵本の顔となる表紙に手帳が描かれたのでしょうか?

『雨ニモマケズ』が作られた経緯については、「実在の人物をモデルにして書かれた」とか「遺書のように書かれた」など諸説ありますが、いずれにしても原稿用紙に書き留められたものではなく、賢治が持ち歩いていた手帳に走り書きのように記されていたものだそうです。

小林敏也さんは、作品の分析だけでなく、そういった関連事項に至るまで、研究を深めたうえで絵本を作り上げました。その結果が表紙の黒い手帳という訳です。ページをめくるたびに迫力ある美しい絵が迫ってくる作品ですが、その制作姿勢もまた圧巻と呼ぶにふさわしい骨太の絵本なのです。

■銀河鉄道の夜 小林敏也

人々にとって本当の幸せとは何かを考えながら、銀河を旅する少年ジョバンニを主人公とする『銀河鉄道の夜』。小林敏也さんは、天の川の幻想世界を美しく描いたこの作品の魅力を、色数を抑えた独特の画面で、読者に見せつけてくれます。

『銀河鉄道の夜』は、難解な作品だと言われますが、その文体はとても美しく、多くの賢治ファンを魅了しています。そんな中にあって、小林敏也版『銀河鉄道の夜』は、賢治ファンに 「未完といわれる『銀河鉄道の夜』を、小林敏也が完成させた」 とまで言わせました。まさに、宮沢賢治学会が唯一認めた絵本画家の面目躍如といったところでしょうか。

この絵本『銀河鉄道の夜』は、宮沢賢治の代表作であると同時に、間違いなく小林敏也さんの代表作にもなったのです。


※授賞理由は、宮沢賢治学会イーハトーブセンターのホームページの記載による

>> 最後に、人気作家が描く賢治童話の絵本をご紹介します
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