アイルランドの独立を語る上で欠かせないキルメイナム刑務所
80年代にミュージアムとしてオープンしたキルメイナム刑務所
ダブリンの西にあるキルメイナム刑務所。イギリスからの独立をめぐって起こったイースター蜂起の際には多くのリーダーが収監・処刑され、その後内戦の際にも使われたアイルランドを語る上では欠かせない場所です。現在ではミュージアムとして一般に公開され、激動の歴史を今に伝えています。
見学はガイドとまわるスタイルで、囚人が収監された独房や刑務所内に併設されたチャペル、要人が扱われた部屋、処刑場などを順にまわり、ここで教えてもらわなければ知り得ない情報満載の興味深いツアーになっています。
刑務所内のチャペルで挙げた結婚式
刑務所内に併設されているチャペル
イースター蜂起のリーダーたちは、後の首相エイモン・デバレラを除いて全員がこの刑務所で処刑されたのですが、その中の1人、ジョセフ・プランケットがこの刑務所内のチャペルで処刑の3時間前に結婚式を挙げたことは有名。ツアーはこの場所からスタートします。
刑務所内でもっとも古い独房
その後はもっとも古いパートにある独房の並ぶ廊下へ。もともと刑務所ができたのは、囚人を個別に収容することが目的だったといいます。ところが、当時アイルランドはかなり貧しい国だった上に、たびたび飢饉に見舞われ、多くの人がこの場所に食べ物と寝る場所を求めて集まり、当初意図したようには機能しなかったのだとか。一説によると、ひとつの独房には5人ほどが収容され、一本のろうそくで2週間を過ごさねばならなかったとも。
独房の廊下の窓にガラスがはめ込まれたもそれよりずっと後と言われているので、生きるためにここに集まった人々の暮らしはかなり厳しいものだったしょう。それでもその日の食べものとブランケットにありつけただけで、外の暮らしよりは格段に環境が良かったそうです。
要人用の部屋
後世に名を残した人々が収監された独房には名前のプレートが付いている
この刑務所で意外だと思ったのは、要人たちは意外にもまともな扱いを受けていたこと。その代表格が、19世紀末のアイルランドの政治指導者スチュワート・パーネル。アメリカ海軍提督の孫であり、またイギリスのチューダー王朝の血筋、イギリス王室と血縁関係にあったことを考えても、無下に扱うことはされなかったのでしょう。
要人が収監れた部屋。当時の様子は壁画から伺い知れる
実際にパーネルが収監されていた部屋には監視用の大きな覗き穴はあるものの、暖炉もあり、当時の模様が描かれた壁を観るに、刑務所とはいえ特別に誂えられた空間だったことがわかります。またツアーガイドの話によるとバーネルは収監されている身ながら、私用でパリに行くことも許されたのだそう。
イギリスからの独立や内戦をテーマにした映画にも登場
覗き穴からは、グレイス・ギフォードが収監中に描いた壁画が見える
アイルランドの独立をテーマにした映画で度々登場する、刑務所内では比較的新しい独房パート。IRAが実行したロンドンでのテロで冤罪にされたアイルランド人とその父との物語「父の祈り」では、かなり多用されています。
独房が並ぶ空間
ここで最も興味深かったのは、刑務所内の教会で処刑前に結婚式を挙げた前述のジョセフ・プランケットの花嫁、グレイス・ギフォードの独房。アーティストであった彼女の独房の壁には、彼女の描いた安らかな顔の母子の姿が見えます。結婚直後に夫を失い、再度収監され、この場所でこの絵を描きながら彼女は何を考えたのでしょうか。
グレイス・ギフォードの独房には入れませんが、実際に入れる独房も数多くあるので、興味のある方はぜひ。
この場所で散ったイースター蜂起のリーダーたち
リーダー達の名前は石碑に刻まれている
ツアーはイースター蜂起のリーダーたちが処刑された外のスペースで終わります。北6県を除く形でのアイルランドの独立を見ることなくこの世を去ったリーダーたち。蜂起は失敗に終わりましたが、国民の独立への機運を高めるきっかけになったことからも、彼らの犠牲のもとに独立は成し得たともいえるでしょう。
高い塀で覆われた処刑場には、両サイドに十字架が佇んでいる
ツアーはこの場所で終わりますが、そのほかにも、独立をめぐり刑務所に収監された人たちや独立までの道のりなどをテーマにした展示もありますので、こちらもぜひご覧になってはいかがでしょう。
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■Kilmainham Gaol(キルメイナム刑務所)
・住所:Inchicore Road, Kilmainham, Dublin 8
・営業時間:
【4~9月】9:30~18:00 (最終入場17:00)
【10~3月】月~土曜9:30~17:30 (最終入場16:30)、日曜10:00~18:00 (最終入場17:00)
・休館日:12月24~26日
・入場料:大人6ユーロ、学生・子ども2ユーロ